イスラエルを駆り立てる「神話」
パレスチナ人を殲滅するために居住地のガザを瓦礫にする、敵対するハマスを一掃するために隣国のレバノン南部を破壊し尽くす、宿敵イランを滅ぼすために指導者をつぎつぎと暗殺するーーこのところのイスラエルの攻撃を見ると、まともな人間がやることとは思えません。
米国とイランが4月8日、2週間の「停戦」に入りましたが、交渉仲介国が「停戦対象」としたレバノンに対して、イスラエルのネタニヤフ首相は「含まれない」と主張し、すぐ首都のベイルートや南部で100か所を攻撃しました。レバノン保健省によると死者は203人、負傷者は1000人余。外交は、この国には通用しないのです。
イスラエルは、いったい何に突き動かされて、このような「非道」を続けているのだろうか。フランスの外交専門誌「Le Courrier de Russie」のマチュー・ビューズ氏は、「イラン戦争はトーラー(ヘブライ神話)に基づく計画である」という論考を発表しました。この問題を考える一つのヒントとして、ご紹介します。

「トーラー」とはユダヤ教の「律法」で、「創世記「出エジプト記」などのモーセ5書を指します。613の戒律で、信仰と生活の規範を示します。
ビューズ氏は「イスラエルが始めたこの戦争は、ヘブライ神話に突き動かされた、まったく非合理的な宗教的冒険と見なすことができる」と書き、主要な神話を指摘します。
まず、イスラエルの民はエジプトを出た後、「アマレク」人から執拗な攻撃を受けました。エホバは「アマレクの名を地から消し去らねばならない」と命じました。「彼らの所有物を滅ぼし尽くせ。男も女も、子どもも乳飲み子も、牛も羊も、ラクダもロバも、すべて殺せ」
大昔の神話にすぎない、という人がいるかもしれない。しかし、ネタニヤフ首相は23年10月にガザへ侵攻したとき、「トーラーには、アマレクがあなたたちにしたことを思い出しなさい、とあります。私たちはそれを忘れず行動します」と述べました。この神話がガザ侵攻を正当化したのです。
ヘブライ神話では、イスラエルはアマレク人を滅ぼしたが、一人だけ生かしました。その子孫であるハマンはペルシャ帝国(今のイラン)で宰相の地位に就き、再びイスラエルの民を根絶やしにしようと企みます。しかし、王はハマンに激怒し、陰謀を阻止しました。この故事を、イスラエルの人びとは「プリム祭」で毎年お祝いします。神話はお祭りのたびに、人びとの記憶に刷り込まれ、次の世代にも引き継がれます。
エゼキエル書によれば、「ゴグとマゴグ」がイスラエルを攻撃しましたが、エホバによって滅ぼされ、新しい神殿が建てられ、イスラエルは「至高の国」として君臨します。「ゴグとマゴグ」が何を指すかは議論が別れていますが、ヨハネの黙示録では「異教の諸国の連合体」とされています。イスラム教、正教、仏教などは「異教」にあたるでしょう。
西側のメディアはイスラエルを「中東で唯一の民主主義国家」と呼んでいますが、それは擬装であって、「宗教的なビジョンに基づいて行動するイスラエルは、本質において『神権政治国家』ではないか」と、ビューズ氏は結論付けています。
イスラエルの民を守ることが、ヘブライ神話の要請であり、国家としてのイスラエルの重要な任務でもあることは分かります。人口1000万人のイスラエルは、計4億2000万人のアラブ連盟加盟国に囲まれています。隣国のイランにはペルシャ文明の末裔である9000万人以上の人々が暮らしています。「ハリネズミ」のように全身を武装しなくてはならない、という考えにつながるのでしょう。
しかし、ユダヤ教の信仰に生きる人はイスラエル以外の国にも大勢います。イラン国内にも約1万人おり、ユダヤ教徒の礼拝や交流の場となるシナゴーグもイラン全土で100以上あります。

米国とイランの停戦が決まった4月8日、テヘランでシナゴーグの一つが爆撃され、完全に破壊されました。ヘブライ語の書物が散乱し、トーラーの巻物は瓦礫の下になりました。
AP通信などによると、イランのユダヤ人団体代表であるホユマン・サメ氏は「(イスラエルの)シオニスト政権は、ユダヤ教の祝祭の期間中に、神聖なシナゴーグを標的にした」と抗議しました。
ヘブライ神話の、どこを、どう読めば、イスラエルがイランのユダヤ教会堂を爆撃する理由がつかめるのか。トーラーを読んだことのない私には見当もつきません。(写真はwikipedia、AP通信、サイト管理人・清水建宇)
