「蚊の艦隊」は駆除が難しい
はじめに「おことわり」を書きます。このコラムは、ドルやユーロ、円などの法定通貨に対する信認が揺らぎ、やがて世界経済が激変するだろう、私たちは老後の蓄えをどうしたら守れるのだろうと考えて、2年前に書き始めました。その「世界経済の激変」は、イラン戦争が長引くにつれて、早まりそうな予感があります。そこで、新聞やテレビが報道しない「イラン戦争の実相」を、もうしばらく深堀りさせてください。
トランプ氏は「イランの空軍も海軍も壊滅させた」と豪語しています。たしかにイラン国軍の大きな戦艦や潜水艦は開戦後まもなく空爆で沈没しました。しかし、革命防衛隊は小さな高速ボートから成る独自の海上兵力をホルムズ海峡に展開しており、米国に屈服する気配は見えません。
Mosquito Fleet(蚊の艦隊)と呼ばれるこの海上兵力は、どんなものなのか。ロシアの軍事記者ボリス・ジェレリエフスキー氏の詳しい報告をご紹介します。

蚊の艦隊は、小型ミサイル艇、浅瀬でも航行できる電気式の小型潜水艇、最高時速100kmの高速ボートなど小さな船だけで構成された軍事システムです。搭載兵器は、機雷、魚雷、対艦ミサイル、対空ミサイル、無誘導ロケットランチャー、35mm機関砲、重機関銃など多種類にわたり、目的ごとに組み合わせを変え、チームで出撃します。
総数は1500隻以上と見られ、大部分は湾岸の水面近くに掘られた地下シェルターに格納されており、米国やイスラエルの空爆から守られています。イラン戦争が始まってからも、まったく被害を受けなかったか、あるいは最小限の損失にとどまり、現在もほぼ完全な戦闘力を保持しています。
航行距離が短いので、外洋での作戦には向きませんが、せいぜい数十kmのペルシャ湾やホルムズ海峡では恐るべき威力を発揮します。しかも、湾岸の地下に設置されたミサイル発射装置や、ドローン部隊と緊密に連携して作戦運用されるため、空からも攻撃できます。高速ボートはあまりにも小さく、米国のレーダーや衛星がほとんど探知できないことも利点です。
米軍は当初、イランの海上攻撃に備えて、ペルシャ湾のバーレーンに掃海能力を持つ3隻の沿海戦闘艦を配備していました。しかし、今は3隻とも湾内には残っていません。湾内の米艦艇は、必ず「蚊の艦隊」に攻撃され、高い確率で損傷を受けるからです。
ブルームバーグ通信によれば、米軍は2020年にヘリコプターやAC130攻撃機を主力として「蚊の艦隊」への対抗訓練をしました。良好な成績だったと報道されましたが、現実のホルムズ海峡では航空機を使うことはできないでしょう。高速ボートは携帯式の地対空ミサイルを常備し、ドローンで攻撃もできるので、米軍機は撃墜される恐れが高いのです。
トランプ氏は、イランが石油を輸出できないようにホルムズ海峡を逆封鎖し、経済に打撃を与えようとしてきましたが、「機雷敷設を阻止する」名目で、米海軍に対して「蚊の艦隊」への攻撃命令を下しました。高速ボート群の脅威を無視できなかったのでしょう。SNSに機関銃を持った写真を投稿し、「もう善人のふりをするのはやめた」と書き込みました。

4月30日、イランの革命防衛隊は「少しでも米軍による新たな攻撃があれば、中東の米拠点は”長く、痛みを伴う打撃”を受ける」と警告しました。
トランプ氏は、戦争権限決議法によって大統領に与えられた60日間の期限が満了した5月1日、「武力衝突は起きておらず、すでに戦闘は終結した」と宣言しました。しかし、引き金に指をかけたまま、ホルムズ海峡の逆封鎖を続けており、一触即発の緊張は続いています。
ホルムズ海峡が今後どうなるかは分かりません。はっきりしているのは、封鎖状態が夏まで長引くようであれば、世界経済への打撃はきわめて大きなものになるだろうということです。(蚊艦隊の写真はタスニム通信、トランプ氏の写真はTruth Social、サイト管理人・清水建宇)
