「金」の眼鏡で見た おカネの風景

米軍はなぜ安価な武器を使わないのか

 イラン戦争は、米国とイランの協議期間に入り、戦闘の報道は減りました。この機会に、イラン戦争が始まってから、ずっと私の頭を占めている疑問を考えたいと思います。それは「なぜ米軍は高価な武器ばかり使い、安い武器をつかわないのか」という疑問です。

 米国とイスラエルは2月28日、突如としてイランを空爆しました。空母から飛び立った艦載機などが上空から爆撃し、駆逐艦などの戦艦からも大量のミサイルが打ち込まれました。トランプ政権は10日後、連邦議会に対して「2日間で56億ドル(約9000億円)相当のミサイルや爆弾を使用した」と報告しました。

 米軍のミサイルは高価です。攻撃用のトマホークは1基が2~4億円。迎撃に使う地対空ミサイルのパトリオットは1基が6億円。横須賀配備のイージス艦はイラン戦争に派遣され、先制攻撃などに参加しましたが、搭載するミサイル「SM3」は1基40億円もします。 

トランプ氏は「これでイランは反撃不能となり、戦争も終わりだ」と考えたのでしょう。しかし、イランは湾岸諸国の米軍基地に対して一斉にドローン攻撃を行い、高価なレーダー施設や駐機中の無人偵察機、空中給油機など多数を破壊しました。

 反撃に使ったのは「シャヘド」の名で知られるドローンです。イランが開発・生産し、ロシアなどにも輸出してきました。エンジンは芝刈り機用の安物。でも50kgの爆薬を積み、時速185kmで、2000km以上飛びます。中国、日本、スウェーデンなどでつくられた軍民両用(デュアルユース)部品を使って安く仕上げ、1台の価格は2万ドル(約320万円)。

 米国にも無人偵察や遠隔攻撃ができるドローンは存在します。とても高性能ですが、上位機種の「RQ-4」は一機約200億円、汎用型の「 MQ-9リーパー 」でも1機約28億円もします。イランのシャヘドと比べることはできません。

An RQ-4 Global Hawk unmanned aircraft like the one shown is currently flying non-military mapping missions over South, Central America and the Caribbean at the request of partner nations in the region. (U.S. Air Force photo/Bobbi Zapka)

安くても高性能だと認めるなら、米軍も安価なドローンを大量に調達すればいいのです。しかし、そういう話は報道されません。米国のメーカーが安価なドローンを開発したという記事があっても、他の国に売るためであって、米軍向けではありません。

 米軍はなぜ、安価なドローンを調達しようとしないのか。この疑問に「ドンピシャリ」の回答を示してくれたのは、米ミシシッピ大学法学部教員のアーロン・ブリニドルソン氏です。元米空軍士官で、国家安全保障研究者の論考を読んでみましょう。

 米国防総省が「あるものが必要だ」と判断した場合、まず「要求事項」と呼ばれる書類を作成しなければなりません。この書類の審査には最近まで各軍から成る「統合能力開発システム」がかかわっており、要求事項が承認されるには平均800日間(2年2カ月)かかっていました。

 要求事項が承認されると、「必要なもの」の試作やテストなどに必要な資金を、国防総省の予算に組まねばなりません。軍は予算要求を数年前に提出するという不文律があり、要求しても予算化されるまでに数年間は待つ必要があります。

 予算が承認され、ようやく「必要なもの」の開発プログラムが始まりました。しかし、1年で完成することはまれで、軍の現場に初期能力を提示するまでに、さらに時間がかかります。2025年の会計検査院の報告によると、主要な防衛装備品調達プログラムは、要求事項から軍への提示までに平均12年かかっています。

 この煩雑な手続きは、軍による過剰で重複した支出を抑制するために、国防総省と議会によってつくられた仕組みです。ただし、既存の兵器メーカーや軍事請負業者も、この仕組みから恩恵を得ています。新興のメーカーが優れた提案をしても、資金を得るのに10年間も待つことはできず、みんな撤退してしまいます。だから、既存の兵器メーカーは認可済みの製品をつくり続け、利益を得られるわけです。

 戦場にいる軍の指揮官にとって、武器を調達しようとすれば、選択肢はひとつしかありません。新しい試作品を夢見ることはできないので、すでに承認されている高価なミサイルを発注するしかないのです。

 ――ここまで読んで、「必要なもの」が軍に届くまでに10年以上かかるという現在のシステムは、いったい誰を守っているのだろうと考えてしまいます。米国という国家ではないし、ましてや戦場で命を賭けている兵士でもありません。

このシステムが護っているのは、高価な武器を漫然と作り続けて利益を上げる兵器会社(もしかしたらキックバックを受け取る軍や抗国防総省の幹部も含めて)ではないのか。そうだとすれば、イラン戦争で米国が陥った、みっともない窮地は、米国の軍産複合体が自ら招いたことだと言わざるを得ません。(写真はロイター、Wikipedia、サイト管理人・清水建宇)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントは日本語で入力してください。(スパム対策)