タングステンがない!
タングステンという金属があります。銀灰色で、重く、純粋な金属の精製に成功した学者が、スウェーデン語で「重い石(タングステン)」と名付けました。中国が世界の生産量の8割を占め、2番目はロシアです。
3つの特徴があります。第一に、融点が3380度Cと全金属の中で最も高く、鉄の2倍以上の耐熱性があります。第二に、きわめて硬く、ダイヤモンドの次です。炭素と結合させた超硬合金はあらゆるものを切削できます。第三に、比重が19.3で、鉛の1.7倍もあり、金と並びます。

こうした特徴があるので、通常は主にドリルや切削器具で使われてきました。価格も安定していました。ところが、イラン戦争が起きると急騰し、1年前の10倍に値上がりました。
タングステンの特徴は、そのまま武器や兵器にとっても有用なため、軍需産業には欠かせない金属なのです。例えば、小銃や機関銃の弾丸は頭にタングステンを入れると、貫通力が飛躍的に高まり、兵員輸送などの軽装甲車を打ち抜くことができます。
細長いタングステンの芯を仕込んだ徹甲弾は、分厚い戦車の装甲も貫くので、現代の戦車の主戦力です。軍艦は、ミサイルを確実に迎撃破壊できるように、タングステンを弾頭に入れた対空砲弾と発射台を必ず備えています。もちろん攻撃ミサイルも頭にタングステンを入れ、貫通力を高めています。
最近、注目されたのは、周辺への被害を減らすために開発された「爆発しない」ミサイルです。これは約45kgのタングステン合金を超音速で落下させ、標的をピンポイントで倒します。米軍はアルカイダの指導者暗殺で、これを使いました。

問題は、ウクライナ戦争で、これらの銃弾や砲弾が大量に消費されてしまったことです。欧州諸国には製造設備がほとんどなく、トランプ氏は「米国から買え」と言いましたが、米国でも備蓄が底をつき始めたため、わずかな量しか送れません。チェコスロバキアが資金を募って銃弾をウクライナに送っていますが、資金を出す国がわずかになって、先細りです。
そこにイラン戦争が起き、米国とイスラエルはミサイルを雨のように落としました。空軍機は機関砲で地上を攻撃し、銃弾を浴びせて街を破壊しました。トランプ氏は「3日で終る」と豪語しましたが、3カ月たっても終りません。
米軍の内部からは、ミサイルや銃弾の在庫が危険なレベルまで減ったと警告が出始め、その情報がリークされて大手メディアも報道するようになりました。とはいえ、武器の生産にはタングステンが必要なのです。
中国は昨年2月からタングステンの輸出を止めました。ロシアもウクライナを利するだけなので輸出しません。多くの国が切削工具のリサイクルで細々と入手しています。
米国にも30年前はタングステン鉱山と冶金工場がありましたが、今は廃墟になっています。金属会社を経営するルイス・ブラック氏はNBCにこう語りました。「米国はタングステンの専門家を失った。知識も技術もない。進歩が見られるようになるまで10年はかかるだろう」
この問題で、フィナンシャル・タイムズ紙は興味深い記事を載せました。昨年8月、タングステン鉱床が発見されたカザフスタンを2人の米国人が訪れました。トランプ大統領の息子のエリック・トランプ氏とドナルド・トランプ・ジュニア氏です。2人は、鉱床の権益を持つ現地企業の株式の20%を取得し、タングステンの一部を入手しました。
私は、これを読んでのけぞりました。タングステンの権益を握ることが米国の国益になることは分かります。でも、国益をトランプファミリーの私益にしていいのか。他の国ではけっして許されないはずだ。私の頭が古すぎるのかもしれませんが。(写真はブルームバーグ、中国のWEB、サイト管理人・清水建宇)
