中国、「黒衣」を脱いで表舞台に
中国中部の沿岸に「ティーポット(茶沸かし)」と呼ばれる石油精製所が並んでいます。いずれも民間の独立製油所で、国営企業より小規模です。しかし、儲かると見れば果敢に行動し、欧米の制裁を受けたロシア産やイラン産の石油を積極的に買い付け、ガソリンやディーゼル油に加工して輸出してきました。中国が輸入する石油の12%は「ティーポット」向けです。
イランに経済的な打撃を与えたい米国は、昨年から「ティーポット」への制裁を繰り返し、4月24日には、ついに日量40万バレルを処理できる大連の恒力石油化学を5番目の制裁対象に加えました。中国で最大の独立系製油所です。
これに対して、中国商務省は5月2日、独立系の石油精製5社に対して「米国の制裁に従うな」と命ずる制裁差し止めを発令しました。これまでのように内々に口頭で伝えるのではなく、4月14日に施行されたばかりの「外国による不当な域外管轄権行使への対抗に関する規則」を初めて適用し、公表したのです。「米国の制裁に従うな」はケンカ腰が丸見えです。
2日後、米国のベッセント財務長官は「中国がイラン産石油を買い続けることは、国際テロへの資金提供に等しい」と厳しい言葉で抗議しました。一方、イランのアラグチ外相は北京へ飛び、5月6日に王毅外相と会談しました。下の写真で分かるように、この外相会談自体、世界へのアピールを意識したものでした。

欧米のメディアは驚きました。ペルシャ湾の緊張が高まり、イラン戦争が始まってからも、中国は静かに「外交重視」を唱えるだけで、影の薄い存在でした。「米国の軍事力に恐れをなしたのだ」とする論評もありました。ところが、歌舞伎で黒衣姿の裏方が、派手な衣装を来て表舞台に出てきたかのように、豹変したのです。
ただし、中国が求めるのは海峡封鎖の継続ではなく、貿易と経済の正常化です。外相会談の2日後、中国は公式声明で「イランに対し、国際社会はホルムズ海峡の安全な航行の回復を求めていることを伝えた」と明らかにしました。海峡を開けと、圧力をかけたわけです。
中国のこの声明は、イラン政府の主導権を握ったと言われる強硬派の「革命防衛隊」も無視できないでしょう。中国は長年にわたりミサイルやドローンの部品や製造技術を提供し、衛星の測位システムなど運用面でも協力してきたからです。
中国は「ティーポット」製油所についても、「制裁に従うな」と命令しておきながら、国内の銀行に「新規融資を一時停止せよ」と求めました。ブルームバーグ通信によると、イラン原油の値上がりで、製油コストが上がり、ティーポット製油所の利益は「ゼロ」に近づいています。破綻企業が続出する恐れもあります。中国政府は融資にブレーキをかけて独立製油所を守るとともに、米国のメンツも立てることを選んだのかもしれません。

いずれにせよ、トランプ大統領と習近平主席による米中首脳会談は5月14日に迫っています。4月にいったん日程が組まれたのに、イラン戦争が長引き、米国側の申し出で延期されました。2度目の延期は、米中とも避けたいでしょう。
「ホルムズ海峡」が米中首脳会談の主要な議題になるかどうか、現時点では分かりません。他にも台湾、貿易などの大きな問題があるからです。しかし、ホルムズ海峡の封鎖と解決策が話し合われることは間違いありません。イラン戦争が始まってから、米中首脳会談は最大のイベントになると思います。(写真は新華社、グラフはブルームバーグ、サイト管理人・清水建宇)
