「金」の眼鏡で見た おカネの風景

イエス像破壊がもたらした衝撃

 レバノンの南部で、親イラン派組織「ヒズボラ」への攻撃を続けているイスラエル国防軍の兵士が、村にあったイエス像を倒し、大型ハンマーや斧を振るって破壊しました。その動画が、4月19日、SNSに載ると、またたくまに世界中に広がりました。

 住民や子供が死傷したわけではありません。木製のイエス像が十字架から引きずりおろされ、破壊されただけです。撮影したのは同僚の2人の兵士。周囲には数人の兵士もいましたが、だれも破壊を止めませんでした。ありふれた光景だったのでしょう。

 しかし、その映像はイスラエル政府を窮地に追い込み、ネタニヤフ首相は対応に追われ、苦しい言い訳をしなければならなくなりなりました。なぜなのか。この映像が暴いた「不都合な真実」は何だったのか。例によって日本のメディアはほとんど報じませんが、英BBCと米CNNの報道で事件の経緯をご紹介します。

 映像の衝撃は、まず米国で広がりました。トランプ大統領の顧問も務めたマット・ゲイツ元下院議員は映像を再投稿し、「恐ろしい出来事」と書きました。トランプ支持者だったM・T・グリーン前下院議員は「これが私たちの税金と武器を毎年何十億ドルも使っている”最大の同盟国”だ」と投稿しました。

 これまでイスラエル擁護を続けてきた駐イスラエル米国大使のマイク・ハッカビー氏は「迅速で厳しい措置が必要だ」と表明しました。ハッカビー氏はキリスト教バプテスト派の牧師でもあります。他にも共和党に近い保守派から非難の声がつぎつぎと湧きおこりました。

 これに対して、ネタニヤフ首相は「衝撃を受け、悲しんでいる」と述べ、サール外相は「恥ずべき行為」として謝罪しました。イスラエル国防軍は4月22日、破壊した兵士と撮影した兵士2人の計3人に「30日間の軍事拘留」を言い渡しました。

 しかし、謝罪や兵士の処分で済むはずがありません。イスラエルがレバノン侵攻を「イスラムとの闘い」と言ってきたことはウソであり、レバノンで暮らすキリスト教徒たちも殺戮と破壊の犠牲者であることがはっきりしたからです。

 BBCによると、現場のデベル村は住人の99.5%がマロン派を中心とするキリスト教徒です。レバノンはもともとカトリックと東方正教会のキリスト教徒が多く、大統領も政府高官の多くもキリスト教徒です。3月2日の軍事作戦開始後、レバノンでは100万人以上が家を追われ、子ども177人と医療従事者100人を含む2290人が殺されました。

 イスラエル政府がいくら隠そうとしても、レバノンでは多くのキリスト教徒も迫害され、殺され続けてきたことがはっきりしたのです。

ネタニヤフ首相は、少しでも挽回しようと、英語で次のように発信しました。「イスラエルは、この地域で唯一、キリスト教徒の人口と生活水準が共に成長している国だ。イスラエルは中東で唯一、すべての人の信教の自由を尊重している国だ」

 英語で発信したのは、米国の国民に向けて言い訳をしたいからでしょう。ネタニヤフ氏の戦略は、イスラエルが計画した武力攻撃に米国を巻き込むことです。米国でイスラエル批判が高まることは、何としても避けたいのです。しかし、頼みの綱の米国では、世論が急速に「イスラエル批判」へと傾いています。

 米国のビュー・リサーチ・センターは、イラン戦争が勃発して約1か月後の3月23日から29日にかけて世論調査を実施しました。その結果、民主党員の80%がイスラエルに否定的な見方をし、共和党員でも41%が否定的で、米国の成人の60%にのぼりました。「ネタニヤフ首相が正しいことをすると思わない」人も59%でした。

 ハンマーで叩き壊されたイエスの木像は、恐らく米国におけるネタニヤフ批判の数字をさらに数%は高めるでしょう。その数%は、イスラエルが米国を巻き込んで中東をやりたい放題に破壊するという野望にとって、困難をもたらすのではないでしょうか。(写真はCNN、グラフはビュー・リサーチ・センター、サイト管理人・清水建宇)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントは日本語で入力してください。(スパム対策)