「金」の眼鏡で見た おカネの風景

西側の海峡は「涙の門」

イラン戦争では、アラビア半島の東側にある「ホルムズ海峡」が注目を集めていますが、西側にある「バブ・エル・マンデブ海峡」も、石油や物資の輸送に欠かせない貿易の要衝です。そしていま、イランやイスラエル、サウジアラビアなどの暗闘で緊張が高まっています。

 この海峡は、出口の最も狭いところで幅が30kmしかありません。「バブ・エル・マンデブ」はアラビア語で「涙の門」を意味します。昔から船の遭難が多く、世界でも有数の「海の難所」として知られてきました。

 しかし、北のスエズ運河が開通してからは、紅海と海峡を経由してアジアに向かう貿易の大動脈となり、今では世界の海上石油輸送の12%が「涙の門」を通ります。ホルムズ海峡を合わせると32%、じつに3分の1を占めるわけです。

 涙の門の半島側はイエメンの領土ですが、実際の支配者は反政府の軍事組織「「アンサール・アッラー(神の支持者)」です。シーア派のイスラム教徒が主体で、同じシーア派のイランから武器などの支援を受けてきました。

 2年前、イスラエル軍がガザ地区への猛攻を続けた時、フーシ派は「ガザのパレスチナ人と連帯する」として、イスラエルにミサイルを発射しました。紅海を通る欧米の商船に対しても数十回に及ぶドローンとミサイル攻撃を繰り返し、2隻を沈没させました。

 イスラエルと米軍は戦闘機でフーシ派の拠点地域の1000か所を空爆し、イエメン南部は瓦礫の原と化しました。トランプ氏は「勝った」と宣言し、フーシ派は戦闘を中止して、沈黙を守りました。

 2月28日にテヘラン空爆が始まり、指導者のハメネイ師が殺された後も、フーシ派の沈黙は続きました。サウジアラビアは紅海のヤンブーに至るパイプラインを稼働させ、ホルムズ海峡を避けて原油を輸出する作戦を始めました。涙の門を通過する原油輸出は急増しました。

 ところが、4月28日、イランの政権幹部が「我われのイエメンの兄弟たちは海峡を封鎖する準備ができている」と述べたと、タスニム通信が伝えました。イラン革命防衛隊の報道官は「米国がホルムズ海峡で行動を起こした場合、次はバブ・エル・マンデブ海峡になる」とSNSで述べました。

 沈黙を続けてきたフーシ派も、エル・アジ外務副大臣が「封鎖の決定が下されれば、冥界の精霊たちでさえ海峡を開放することはできないだろう」との声明を出しました。ブヘイティ政治局員は「封鎖は侵略国のみを対象とする」と具体的な方法まで明言しました。

 静かだった「涙の門」は、突如、舞台の上で照明を浴びたかのようです。スイッチが「ON」になり、騒々しい威嚇合戦が始まりました。

 ホルムズ海峡の攻防で明らかになったように、「封鎖」とは機雷を敷設してすべての船を通行止めにしなくても良いのです。通過させる船と通過させない船を選ぶ「海峡支配」を確立することが狙いです。

 その海峡支配は、1発のミサイルも発射する必要がありません。「発射するぞ」と脅すだけで、船と積み荷の保険を引き受ける保険会社は引き受けを拒否し、保険のない船は航行不能になって、封鎖と同じ結果をもたらします。

 紅海からの迂回輸出に期待していたサウジアラビアは、フーシ派の脅迫が口先だけで終らず、実際にタンカーの航行を困難にする海運業界の現実を熟知しています。だから、ホルムズ海峡を外側から封鎖しようとするトランプ氏に協力を求められたとき、サウジは断りました。

 欧州もアジアの国々も、「侵略国」と認定されることは望まないでしょう。「涙の門」を通過できなくなれば、巨額の損失を被るからです。(地図はAsia Times、写真はBBC、サイト管理人・清水建宇)

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