「金」の眼鏡で見た おカネの風景

インドは南の海峡に砦を築く

 ホルムズ海峡とともに、「世界の海上交通の要衝」として有名なのは南のマラッカ海峡です。マレー半島とスマトラ島の間にあり、長さは930km。最も狭いところは2.8kmしかありません。ホルムズ海峡の最狭部のわずか10分の1です。

 この海峡を年間12万隻の船舶が行き交い、世界の海上貿易の2割を担っています。日本と中国は、海上輸入のエネルギーの8割以上が「マラッカ経由」です。「命綱」と言っても過言ではありません。

 5月半ばに米中首脳会談が近づいたとき、米国の政界では「トランプ大統領は中国に圧力をかける手段を持っていないが、マラッカ海峡を封鎖すると脅すことはできる」というジョークが交わされたと報じられました。困ったことに、トランプ氏は国の主権も国際法も無視してやりたい放題を重ねてきたので、笑い話で済ますことができないのです。

 インドは、イラン戦争で最も打撃を受けた国のひとつです。15億人近い世界一の人口を抱え、経済の拡大期に入ったのに、自前のエネルギー資源はほとんどなく、石油や天然ガスの輸入にすがりつくしかありません。太平洋とインド洋を最短距離で結ぶマラッカ海峡は、インドにとっても「生命線」です。

 インドは今、この海峡の入り口に近いインド直轄領の離島に砦を築くため、巨額の投資を集中させています。インドの退役空軍元帥、アニル・チョプラ氏が5月にAsia Timesへ寄稿した論考によると、次のような事業です。

 砦を築くのは、300近くあるニコバル諸島の最南端にある「大ニコバル島」。沖縄本島とほぼ同じ大きさ。ここに約100億ドル(1兆5000億円)を投じて、空港を整備し、桟橋やふ頭を建設してコンテナ積み替えができる港をつくる。

 手つかずの自然を観光資源にするため、島の8割は樹木の伐採を禁止し、古来から続く島の環境を保存する。開発が許可された区域ではホテルや国際会議場、展示場を建設し、観光産業で働く住民が定住できるようにする。

 観光客を年間100万人、定住する住民を1万5000人にするのが目標だ。「砦」と言っても、これ見よがしの軍事施設を増やすのではなく、世界から大勢の人が集まってにぎわう島にすることが、イザと言うときに役立つという考え方だ。

 これらの諸島は、インドに30万平方kmもの排他的経済水域をもたらしている。空港や海港が整備されれば、違法漁業や海賊行為などの脅威を取り締まる基地になり、インドの漁業や海運の安全を守るとともに、航路の監視能力を高める。

 また、排他的経済水域には、マレー半島東側の「アンダマン海」の一部が含まれるが、これまでに実施された周辺国の探査でアンダマン海の海底には巨大油田がある可能性が高い。インド政府も潜在埋蔵量を3億7000万トンと推定している。大ニコバル島の整備が進めば、油田開発の動きも活発になる――。

 こうした動きはインドだけではありません。マレー半島の付け根は幅48kmしかなく、「クラ地峡」と呼ばれていますが、一部を領土としているタイ政府は、運河などで両岸の太平洋とインド洋を結ぶ「クラ・プロジェクト」を始動させました。マレー半島の先端にあるシンガポールにも呼びかけ、300億ドル(4兆5000億円)の開発資金を集めようとしています。

 クラ地峡が変われば、マラッカ海峡の役割も変わらざるを得ません。イラン戦争は、アジアの海峡にも変容を促がしているのです。(地図は長尾賢氏、写真はWayfarerIndia、サイト管理人・清水建宇)

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