NYダウと金価格の比率にぜひ注目を!
先週は、世界の株式市場が歴史的な暴落と歴史的な急騰を繰り返し、ジェットコースターに乗せられたようでした。新聞やテレビはトランプ大統領が仕掛けた「関税戦争」のせいだと報道しました。トランプ氏が「高い関税をかける」と脅せば、株式市場は暴落し、「90日間猶予する」と言えば、一転して急上昇したからです。
しかし、株式市場の激動は、「関税」だけが原因なのでしょうか。
そうではないと、米国のマネ―メタルズ社のアナリストであるマイク・マハリー氏は言います。「NYダウの株価指数と金価格の比率である”ダウ・ゴールド・レシオ”に注目すれば、もっと大きな物語が見えてきます」と。
この比率は、NYダウの数値を、同じ日の金の価格(1オンス=約31g)で割った数字です。言い換えると、NYダウは何オンスの金に相当するかを示しています。先週の終値は、NYダウが40,213ドル、ロンドン市場の現物金価格は3,237ドルでした。したがって、ダウ・ゴールド・レシオは「12.4」となります。
この「12.4」は歴史的に見て、どのように位置づけられるのでしょうか。下のグラフは、1975年から現在まで、50年間の推移を示しています。2000年の「43」は、インターネットのブームで関連企業が軒並み暴騰した「ITバブル」の時の記録です。

しかし、2009年までは米欧など14カ国の中央銀行が金の売却を申し合わせるなど、作為的に金価格が押し下げられていたので、その間の「ダウ・ゴールド・レシオ」は当てになりません。金価格が「足かせ」を外された2009年以降の推移を考察すべきでしょう。
2008年のリーマンショックで世界金融危機が起きるとダウ・ゴールド・レシオが下がり、20012年には「5」台になりました。連邦準備銀行がドルを大量に発行して危機を脱すると、株式市場が上昇し、2019年には「22」を超えました。
しかし、翌年、新型コロナウィルスの感染拡大で世界経済が冷え込み、一気に「12」まで下がりました。コロナ禍の厳しい規制が和らぐとともに、2021年から株式市場は再び上昇し、「AI(人工知能)」がもてはやされて、「20」を何度も超える活況を呈しました。下がり始めたのは、2024年の米国大統領選挙の後からです。
トランプ氏が「関税」を叫ぶ前から、株式の過大評価(バブル)を修正する動きが始まっていたと見るべきでしょう。先週の「関税」騒動は、バブルをはじけさせる「針」の役割を果たしたに過ぎないと、マハリー氏は見ています。
世界最大級のファンドを率いるレイ・ダリオ氏は、4月8日の声明で「いま起きている問題は関税だけだと誤解してはいけない」と述べました。①政府や民間の債務が多すぎ、しかも急速に増えている、②既存の政治秩序が事態を解決できないため、民主主義が崩壊に向かっている、③米国が他の国々に従うべき秩序を示していた時代は終わり、世界の秩序も崩壊しつつある。
「心に留めるべきは、私たちが今これらを目撃していることです。この種の崩壊は一生に一度しか起こりませんが、歴史上、何度も起こったことです」
では、「ダウ・ゴールド・レシオ」が向かう数字は、いくつが妥当なのでしょうか。マハリー氏も、その数字を示していませんが、計算方法の説明で、こう語っています。
――もしも、レシオが「5」になったとすると、NYダウが37,500にとどまった場合、金価格は1オンス=7,500ドルになる。NYダウが20,000ドルに下がった場合、金価格は1オンス=4,000ドルになる。
レシオが「10」なら、どうなるか。あるいは「8」なら、どうなるか。電卓を叩きながら頭の体操をしようかなと思います。(グラフはMoney Metals、サイト管理人・清水建宇)