金が貿易戦争の「隠れた戦場」に
アメリカが 関税かけると 言ったから 4月2日は 「解放記念日」
俵万智さんの「サラダ記念日」風に言うと、トランプ大統領の心境は、こんなところでしょうか。「解放」かどうかは別として、この日以来、世界の経済は大変動の嵐に見舞われています。関税攻撃が中国に狙いを定めたものであることも、はっきりしてきました。
しかし、中国は4月2日よりずっと前から、関税攻撃に備えていたようです。英紙フィナンシャル・タイムズによると、2月6日に約7万トンの米国産LNG(液化天然ガス)を積んだタンカーが福建省に到着したのを最後に、中国は米国のLNGを輸入停止にしました。
また、米国のボーイング機や航空部品は、中国の航空業界にとって欠かせない重要な品目ですが、中国政府は輸入を停止しました。当然、エアライン各社は部品不足に直面します。しかし、中国は昨年から古い機体を輸入して分解し、1年分の部品を蓄積するよう、リース会社などに要請してきたので、当分は困らないそうです。
逆に、中国は米国経済の「急所」に痛撃を与える準備をしてきました。「急所」とは、米ドルが君臨している「基軸通貨」の座です。米ドルは貿易の決済に使われ、米国債は世界中の中央銀行に準備資産として保有されてきました。米国の貿易赤字が増えても、米ドルをどんどん印刷して穴埋めすればよく、「法外な特権」と呼ばれてきました。
ウクライナ戦争が起きると、米バイデン政権はロシアが欧米に預けていた資産を差し押さえ、貿易決済に必要な送金通信網のSWIFTから遮断するなど、経済制裁を強化しました。多くの国々が「ドルは武器として使われる」ことを知り、米国債を売って、金を準備資産に組み入れる動きを加速させました。金価格は急騰し、基軸通貨ドルの地位は揺らいでいます。

金はドルにとって「究極の敵」です。中国は米ドルを弱めて金価格を上げるために、いくつかの措置を講じました。その一つが、中国の保険会社に初めて金購入を認めたことです。2月7日に公表された指示によると、運用資産の1%を金投資に向けることができます。ブルームバーグ通信は上位10社だけで約4兆円相当の金需要が加わると報じました。有力銀行は、この保険会社の金投資を理由に金価格の予想を引き上げました。
中国人民銀行は昨年11月から準備資産の金購入を5カ月連続で増やしてきました。さらに中国政府は国内投資家の需要を満たすため、商業銀行に金の輸入割り当てを追加し、今まで以上に輸入できるようにしました。
中国での金の需要が強いため、上海先物取引所における取引量は、4月第2週に1年ぶりの高い水準を記録しました。価格も上がり、ニューヨーク先物取引所よりも1オンス=約31g当たり20ドルも上乗せされて売買されました。
この中国の「爆買い」に、インドが伴走しています。4月18日の時点で、ルピー建ての金価格は年初より23%も上昇し、高価格にもかかわらず、3月の金輸入量は44億ドルとなり、前月の2倍にのぼりました。
インドでは伝統的に宝飾品が好まれ、とくに結婚式向けの需要が中心でした。このため価格が上がると需要が冷え込む傾向が強かったのですが、今年に入って「投資」と「資産保全」目的に購入する人が増え、需要が急拡大しました。
購入の方法も、以前はあまり見られなかった「金ETF(上場投資信託)」が増え、インド国内の口座数は過去最高の700万件にのぼっています。
こんなに金の需要が増えたのなら、米国からの金輸入を増やして、貿易不均衡も解消すれば一挙両得になる――という声が上がっても不思議ではありません。ヒンドゥスタン・タイムズ紙は「政府は米国からの金輸入を検討している」と報道しました。
インド商務省によると、2月までの11カ月間で740億ドル相当の金・宝飾品が輸入されたが、そのうちの米国産はわずか50億ドルでした。同じ期間の米印貿易は、米国が348億ドルの赤字です。輸入する金・宝飾品の半分を米国から買えば、たしかに貿易は均衡する計算です。でも、米国も金の輸入国であり、金はトランプ大統領が売りたいものではありません。
ともに14億人を超え、人口世界一のインドと、世界で2番目の中国。両国の金需要の高まりは、4月2日以来の貿易戦争で、米国の戦略を狂わせる「隠れた戦場」になりつつあるようです。(合成画像はMoneymetals サイト管理人・清水建宇)