「金」の眼鏡で見た おカネの風景

♪ホルムズ海峡「夏」景色

 イラン戦争が始まってほどなく、タレントの清水ミチコさんが「ホルムズ海峡冬景色」という替え歌を発表しました。沖縄での公演で、たぶん即興でつくったのでしょう。私はファンなので(名前の読みもカミさんと同じ)、すぐ聞きました。

 替え歌の歌詞は、中盤から、こうなっています。
「♪石油運ぶ 船の群れは だれも無口で トランプだけに 切れている
 おまえが一人、連絡船に乗れ、
 舵をとって、責任とって、イランことするな
 ああ、ホルムズ海峡 冬景色」

 米国とイランの停戦協議がまとまり、6月17日、両国の大統領は14項目からなる覚書に署名しました。「60日以内」に、つまり8月15日までに最終的な合意に至るよう、協議が始まります。

 戦争が始まって、それぞれに何を失ったのか。停戦協議中のホルムズ海峡では、これまでと違うどんな風景が見られるのか。一区切りついたところで、中間総括してみます。

 米国の独立系調査団体である「イラン戦争費用追跡機関」によると、戦争は108日間に及び、イランでは小学校の児童や教師ら150人を含めて3400人以上が死亡し、レバノンではイスラエル軍の爆撃などで3500人以上が殺されました。イランが湾岸諸国の米軍基地などを攻撃した際、米軍などに13~15人の死者が出ており、それらを含めて「死者は7000人」とされています。

「米国の納税者が負担した戦争費用」は、1133億ドル(約18兆2400億円)とされています。端数もあって、もっともらしく見えますが、米国防省が発表した「最初の6日間で113億ドル、その後は1日あたり10億ドル」をそのまま計算した数字に過ぎません。

 米議会調査局は、破壊された航空機の被害を5月に公表しましたが、最大28億ドル(約4500億円)と計算しました。しかし、1機で50億円近くもする「MQ-9リーパー無人機」を30機近くも失っており、7機の希少なKC-135空中給油機も破壊されたことなどを含めると、控えめな数字です。

 また、イランは開戦の直後に湾岸諸国にある米軍基地のレーダーや通信設備を集中的に攻撃しましたが、その被害額は米国にとって悲惨きわまる数字だと報道されました。

 その結果、米国は何を得たのか。トランプ氏はイランの核開発問題に焦点を当て、イランは覚書で「核兵器を開発しない」と確約したと胸を張りました。しかし、中東専門家は「イランは戦争前から確約を繰り返してきた。ハメネイ師のファトワ(宗教令)も核兵器開発を明確に禁じてきた。トランプ氏が得た確約は、昔からずっとイランが主張してきたことだ」と言います。

 ホルムズ海峡の「開放」も、米国とイスラエルが戦争を始める前の状態に戻るだけであり、トランプ氏に「手柄顔」をされる理由はありません。しかも、覚書に署名すれば、すぐにもタンカーや貨物船が動くわけではないのです。

 海峡を行き来する船舶数のグラフ(上)を見てください。イラン戦争が始まって、確かに激減しましたが、それでもこの3カ月余、「ゼロ」だったわけではありません。内側で封鎖するイランの都合や、外側で封鎖する米国側の事情などで、10~20隻は通行していました。

 これが戦争前のように100~200隻が行き来するようにならなければ、エネルギーや物資不足は解消されませんが、そうなるかどうかは保険会社の判断次第だと、海運の専門家は指摘しています。

 そして、ロイズ市場協会のキャメロンCEOは「船主と保険会社にとって、安定と確実性は欠かせないものです。湾岸地区での回復の道のりは長くて複雑なものになるでしょうし、正常に戻るには数カ月はかかるでしょう」と、ブルームバーグに語りました。

 船舶の往来が、覚書に定められた「60日間」で正常化するかどうかは分かりません。ホルムズ海峡の「夏景色」が嬉しい風景になるとは限らないのです。(グラフはブルームバーグ、サイト管理人・清水建宇)

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