イラン経済は暗号通貨が支える
米国とイスラエルによるイラン空爆から1カ月余り経ちました。イランは指導者と家族、軍の幹部らを殺され、重要施設を破壊されましたが、まだ反攻を続けています。社会と経済も、まだ崩壊しているようには見えません。
空爆の余燼がくすぶる3月中旬、イラン中央銀行は額面1000万リアルの新紙幣を発行しました。これまでで最高額の紙幣ですが、日本円に換算すると1200円程度です。2月初旬には500万リアル紙幣を発行しており、立て続けに高額紙幣を発行したわけです。

1000万リアル紙幣は日常の買い物では不便ですが、イラン国民の多くは自分の銀行口座からその都度引き落とされる「デビッドカード」を使います。口座に高額紙幣を入金すれば、カードで少額の商品を買えるので、生活に支障はありません。
この新紙幣発行について、米国の経済紙は「イラン経済の崩壊を示す兆候だ」「物価高騰で価値はすぐ下がるだろう」と報道しました。しかし、それは浅薄な見方だと言わざるを得ません。イラン経済を動かしているのは通貨だけではないからです。
ブロックチェーン上の取引を分析し、金融機関や各国の法執行機関にデータを提供する国際機関のChainalysis(チェイナリシス)は、イラク戦争が始まってまもなく、とても興味深いレポートを発表しました。
報告書によると、欧米による経済制裁に20年間も痛めつけられてきたイランは、制裁をかわす金融システムをつくろうとし、一時はビットコインを利用していました。しかし、最近になって、通貨や商品を裏付けとするステーブルコインに変更し、イラン革命防衛隊はその発行と交換ネットワークの拡大を最優先事項として取り組んできました。
イラン革命防衛隊と関連があるアドレスは急増し、受け取ったステーブルコインは昨年だけでも最低30億ドル(約4800億円)にのぼりました。コインを流通させる交換所は75か所あり、各国にまたがっています。この数字は大手の取引所の扱い高を含んでおらず、実際はもっと多いと見られます。
Chainalysis(チェイナリシス)は、これらの交換所を監視していますが、イラン空爆の後、反攻作戦のたびに、ステーブルコインの取引量が跳ね上がることが観測されました。「レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イエメンのフーシ派など各地の代理組織に資金を送るために使われた」と見ています。
昨年秋、このステーブルコインについての機密文書が漏洩し、それにはイラン中央銀行がコインの購入と流通を促進していたことを示唆する記述がありました。いわば中央銀行がお墨付きを与えていたわけです。だから、ステーブルコインのネットワークは今後も拡大するでしょう。
一方、イラン国民は以前からビットコイン(BTC)を利用してきました。1月24日号の「通貨崩壊のイラン国民が頼るもの」でも書きましたが、イランには42万7000台もの採掘マシンがあり、そのうち9割は政府に届けていないモグリの採掘機です。採掘マシンは電力を食うため、テヘランでは停電騒ぎが絶えません。逆に言うと、停電が頻発するほどBTCの採掘が盛んに行われてきたのです。

BTCの最小単位は「サトシ」で、1億分の1を表します。今の価格(1BTC=1100万円)だと、1サトシ=0.11円なので、小口の買い物や支払いにも使えます。だから国民の生活に深く浸透し、昨年の取引規模は1兆2300億円に膨らみました。
つまり、イラン経済は通貨リアルだけでなく、革命防衛隊のステーブルコインと、国民のビットコインで動き、支えられているわけです。米国とイスラエルは、通貨リアルを経済制裁で抑圧できても、2つの暗号通貨には手を出せません。
経済の血液ともいうべき「おカネ」は、イランではともかくも回り続けており、当分は持久戦を支えることができそうです。(紙幣はイラン中央銀行、写真はイラン国営通信、サイト管理人・清水建宇)
