ウクライナの金塊と外貨を押収
イラン戦争が始まってから5日後、東欧のハンガリーで奇妙な事件が起きました。2台の現金輸送車が首都ブダペスト近郊のガソリンスタンドに駐車したところ、ハンガリーの武装警官が取り囲んで7人の乗員を逮捕し、積んでいた金塊7kgと4000万ドルの紙幣、3500万ユーロの紙幣(計約128億円)を押収しました。乗員は銀行員ではなく、ウクライナ情報部の元将軍が指揮し、空軍の元大佐ら軍関係者が加わっていました。
この事件を説明するには、ドルジバパイプラインから始めたほうがいいでしょう。これはロシアの油田から4000km離れたハンガリーやスロバキアなどへ石油を輸送する世界最長のパイプラインです。海のない東欧の内陸国にとっては「命綱」であり、欧州連合の経済制裁からも除外されています。

しかし、ウクライナから見ると、敵国ロシアの資金源であり、許すわけに行きません。何度も攻撃し、1月末に輸送を停止させました。これに対し、ハンガリーは、欧州連合によるウクライナへの900億ユーロ融資計画に拒否権を行使し、スロバキアもウクライナへの送電を止めると抗議しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「900億ユーロの融資を阻止している”一人”が考えを変えないと、その人物の自宅住所を我が軍に通知するぞ」と警告しました。その”一人”がハンガリーのオルバーン首相であることは明らかです。しかも、米国とイスラエルがイランの宗教指導者と家族を空爆で殺害した直後です。
オルバーン首相は「暗殺の脅しで私を止めることはできない」と反論しました。そして、ほぼ同時に起きたのが、ウクライナの現金輸送車に対する摘発と金塊や外貨の押収だったのです。
この金塊と外国紙幣は、オーストリアのライファイゼン銀行からウクライナ国立貯蓄銀行(オシュチャドバンク)宛に引き渡されたものです。ハンガリーの調査によると、長年にわたって、ほぼ毎週、同じ銀行から引き渡され、今年だけでもドルとユーロ紙幣で2200億円、金塊146kgが現金輸送車で運ばれていました。

銀行から銀行へ外貨を送るとき、通常は相手口座に送金します。現金で運ぶのは記録を残すのがまずい場合です。したがって、ハンガリー政府は「マネー・ロンダリング(資金洗浄)」の疑いがあるとして捜査を始め、輸送車と紙幣、金塊は証拠品として領置しました。これに対して、ウクライナは「国家による山賊行為だ」と強く反発しています。
パイプラインによるエネルギー輸送では、天然ガスも重要です。現在、ロシアのガス田からブルガリア、セルビア、ハンガリー、トルコに輸送する「トルコストリーム」と、ロシアとイタリアの企業が共同運営する「ブルーストリーム」があり、後者はトルコにガスを運んでいます。
ウクライナは、これらもロシアの資金源だとして、心臓部である圧縮施設にドローン攻撃を繰り返しています。イランが「米国や欧州、その支援国の船舶はホルムズ海峡を通過させない」と宣言し、原油も天然ガスも価格が急上昇しました。エネルギーはますます貴重になっています。
東欧などの内陸国にとって、パイプラインはホルムズ海峡のようなものだと言えるかもしれません。遮断されれば、経済にとって致命的な打撃を受けるからです。日本ではほとんど報道されませんが、ここでもエネルギーをめぐる争いは激しくなるばかりです。(写真はハンガリー政府、地図は英BBC、サイト管理人・清水建宇)
