「金」の眼鏡で見た おカネの風景

高市が先か、レタスが先か

 私たちは、経済の風向きを主に株式市場の動きで見ます。新聞もテレビも株式市場のニュースをよく報じるし、最近は政府が奨励するNISA(少額投資非課税制度)が広がって、株式投資を始めた人も増えました。

 一方、国債などの債券は、関心を持つ人が少なく、報道されることも多くありません。しかし、債券市場は株式市場の2倍の規模があり、巨額のマネーが動きます。株式市場には、無知な素人や噂を鵜呑みにするおっちょこちょいも混じっていますが、債券市場は経済の専門家が真剣勝負をする「プロだけの戦場」です。

 債券は額面利率が固定され、価格が上がれば利回りが低くなり、逆に価格が下がれば利回りが高くなります。多くの人が借りる住宅ローンの金利も、長期の国債利回りをもとに算出します。国債の価格変動(金利変動)は、経済に大きな影響を与えるのです。

 高市早苗内閣が発足してから、日本国債が大きく売られ、長期金利が上昇しました。大型の補正予算を組み、新たに国債を11兆円も発行する。ガソリンを安くするためにガソリン税を減らし、その財源は先送りする。――債券市場を動かす機関投資家らは、日本の財政は危ないと判断し、国債を売り始めました。

 高市首相は1月19日、通常国会の冒頭で解散すると宣言し、さらに「食料品の消費税を2年間ゼロにする」という公約を掲げました。例によって財源は先送りです。機関投資家やファンドなどは唖然としたでしょう。その翌日、債券市場は急変しました。

 30年もの国債は3.91%に跳ね上がりました。1999年にこの国債が導入されて以来、の最高記録です。40年もの国債は4.22%と、史上初めて4%の大台を超えました。発行量が多い20年もの国債は3.48%、指標となる10年もの国債は2.33%と、やはり27年ぶりの高水準になりました。

 債券市場のプロたちが「高市は売り」と判断したことの衝撃は大きく、海外でも「Takaichi Shock」と報道されました。日本はアベノミクスで低金利政策を続けたため、海外の投資家は低金利の「円」を借りて、高金利のドル資産に投資してきました。低金利の「円」は世界の金利上昇を抑える「重石」の役割も担ってきたのです。「円」の金利が急上昇すれば、世界のマネーが逆流する恐れがあります。それは世界不況の引き金になりかねません。

 「Takaichi Shock」とよく似た出来事が、2022年秋に英国で起きました。首相になってまもないリズ・トラス氏が、政府が新たに借金することを前提に大型減税策を発表したところ、金融が大混乱に陥ったのです。

 大衆紙「デイリー・スター」は、トラス首相の写真とレタスを並べ、「トラスの退陣が先か、レタスが腐るのが先か」とキャンペーンを始めました。それから6日後にトラス首相は辞任を表明し、「レタスが勝った」と大騒ぎになりました。

 日本の債券市場が急変した1月21日、ドイツの経済紙ハンデルスプラットは、「日本の債券市場は狂乱状態になった」と書き、「債券市場は日本版のトラス・ショックを意識している」と伝えました。香港のAsia Timesも「高市氏はリズ・トラスの瞬間をすぐに迎える」という記事を載せました。

 今回の衆院選で、高市首相は「与党で過半数」の目標を達成し、勝利するかもしれません。しかし、その瞬間、機関投資家やファンドなどの「債券プロ」たちが、財源無視の放漫財政が本格化すると判断して、日本国債を売り浴びせる恐れがあります。

 レタスに負けたトラス首相と同じ道を、高市首相も歩む可能性は、ゼロではありません。(グラフはWolfstreet、写真はAFP、サイト管理人・清水建宇)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です