銀の謎③ 銀は金の100分の1で適正か
銀は、今でこそエレクトロニクスに欠かせない素材として、産業用の「商品」としての側面に注目が集まっています。しかし、人類の歴史をさかのぼると、最初は「おカネ=貨幣」として存在したのであって、現在でもその特質を失ってはいません。
おカネとして使うには、金貨と銀貨の交換比率を定める必要があります。これを金銀比率(Gold Silver Ratio)といいます。古代において、金は砂金のようなかたちで早くから知られていましたが、銀は自然状態ではわずかしか採れず、金よりも希少でした。銀が広く知られるようになったのは精錬の技法が普及してからです。
したがって、人類の歴史の初期には、金と銀の価格差はわずかでした。下の図は、古代エジプトのメネス王が紀元前3200年に初めて「金1対銀2.5」と定めてからの金銀比率の推移を示したものです。銀の埋蔵量は金の20倍もあり、精錬技法が進化するにつれて銀の生産量も増えました。18世紀のヨーロッパと米国では「1対15」まで広がりました。

1971年、米国のニクソン大統領がドルと金の兌換を停止し、世界の通貨は金の裏付けのない法定通貨だけになりました。金は錨を失った船のように市場をさまよい始め、同時に金銀比率も不安定になりました。この時期、「1対30」~「1対40」に広がります。
1980年にハント兄弟が銀の買い占めを企て、一時的に「1対20」を割り込みましたが、その後は「1対60」を挟んで大きく上下する状態が続いています。下のグラフはニクソンショックから現在までの推移を示しています。

これを見ると、金銀比率の上下動は大きく、2021年の新型コロナの蔓延期には「1対120」まで急上昇し、その後わずか5か月で「1対60」近くに下落しました。銀価格でいうと、急落し、その後に急上昇したわけです。
2008年のリーマンショックの際も、「1対80」まで急上昇し、2年後には「1対30」近くまで急落しました。いったい適正な金銀比率はいくつなのか、いや、そもそも「適正な金銀比率」というものがあるのだろうか。専門家でも答えを出せないようです。
6月初めまで、しばらく「1対100」が続きました。つまり銀は金価格の100分の1だったわけです。かつては「銀は貧乏人の金」と言われました。1オンス(31g)のバーが34ドル(4900円程度)ですから、私でも気軽に買えます。
しかし、先週の後半、銀はするすると値を上げ、 ニューヨーク市場で36ドルを超えました。週末の金銀比率は「1対92」に急変しました。この変化は何を意味するのでしょうか。
銀の取り引き市場は小さく、金の市場規模に比べると10分の1しかありません。だから、わずかな資金流入や流出で大幅に変動します。弱気市場では急落し、強気市場では急騰しやすいのです。
となると、銀市場に新たな資金が投じられるかどうかが、今後の銀価格形成のカギを握ると見ていいでしょう。来週の最終回は、銀市場の新たな動きを考えます。(図とグラフはMoney metals、サイト管理人・清水建宇)