銀の謎② 銀の供給は7年連続で不足
前号で、銀の産業向け需要が急増していることを書きました。需要が増えると供給も増えるだろうと思われがちですが、銀には当てはまりません。その大きな理由は、銀は主に銅や鉛、亜鉛の鉱山で副産物として生産されることです。
銀の採掘を主目的とする鉱山(1次銀鉱山と呼ばれます)も存在しますが、25%、4分の1しかありません。残りの75%は、他の金属の副産物として銀を採掘する「2次銀鉱山」です。採掘量を増やすかどうかは、主目的の銅や亜鉛などの需要と価格によって決まります。銀の需要が増えたからといって、増産するわけにいきません。
銀の生産量が多い上位5カ国は、①メキシコ、②中国、③ペルー、④チリ、⑤ボリビアです。メキシコでは16世紀にサカテカスとグアナフアトで銀鉱山が見つかり、とくにグアナフアト鉱山では最盛期に世界の銀の4分の1を産出しました。二つの銀鉱山と当時の栄華をとどめる街並みはユネスコの「世界遺産」に指定されています。

しかし、こうした銀鉱山の多くは掘り尽くされ、今では銅や亜鉛鉱山での副産物として生産される銀が主流になったのです。そして、1次鉱山でも2次鉱山でも、鉱石の中の銀の含有量が低下傾向にあり、銀の生産は2015年をピークに伸び悩んでいます。
米国に本拠を置く世界銀協会(The Silver Institute)は、世界の銀生産と需要を調べ、毎年4月に年報を発表してきました。先ごろ発表された最新版によると、2024年は3万6200トンの需要に対して、供給は鉱山生産やスクラップからの再生銀を含めて3万1575トンにとどまりました。
差し引き4600トン余が供給不足だったわけです。この供給不足は2021年から続いており、4年連続となります。しかし、「上場取引型の金融商品(ETP」、いわゆる「紙の銀」を加えた需給バランスは2019年からマイナスになっており、実際は6年連続して供給が不足しているのです。
銀の不足量は年を追って大きくなっており、昨年の不足量は2019年の3倍でした。世界銀協会は、今年も5800トン以上不足すると予想しており、7年連続の供給不足が確実視されています。
これほど長期間にわたって大量の供給不足が続いているのですから、銀市場はひっ迫し、価格が大きく上昇するはずです。しかし、供給不足前の2018年の1オンス(31g)=16.2ドルから24年の28.3ドルに上がっただけです。6年間で70%の上昇であり、同じ期間に260%上昇した金に比べて、はるかにおだやかな値動きだと言えるでしょう。
なぜ銀価格の上昇はおだやかなのでしょうか。それは、銀の取引市場に膨大な在庫があるからです。ロンドン市場(LBMA)、シカゴ商品取引所(CME)、上海先物取引所(SHFE)などには、取り引きに備えて膨大な量の銀が保管されており、24年末には計3万8500トンを超えました。銀の1年分の総供給量に匹敵します。ここから供給不足分の銀が提供されるため、価格が上がりにくいのです。
この地上在庫が減らないと、需要の伸びが銀価格になかなか反映されません。下のグラフをご覧ください。ロンドン市場とシカゴ先物取引所、その他の取引所の銀在庫合計が、21年から25年にかけて、どう変化したかを示しています。(単位はメガオンス)

これによると、この5年間で銀在庫は3分の1ほど減っています。とくにロンドン取引所の減り方が目立ちます。この傾向が続けば、あと数年で現在の半分に減る計算です。
銀の需要がさらに増えれば、在庫はもっと早く減ります。では、銀の需要が大きく伸びる要因はあるのでしょうか。次回はその点を考えます。(写真はShutterstock、グラフはMetals Focus、サイト管理人・清水建宇)