「金」の眼鏡で見た おカネの風景

金の27%は再生品です

 ロンドンの金現物市場は、先週末も1オンス(31.1g)=4000ドル近辺で取引を終えました。値動きは相変わらず荒いですが、「史上空前の高値」と言われた4000ドルを、まだキープしています。

 金曜日(7日)の午後、東京都台東区の金買い取り業者を見に行きました。高値が続いているので、今も店の前に行列ができています。窓ガラス越しに店内をのぞくと、ネックレスや腕輪などを鑑定していました。

 「金を買い取ります」という看板が増えています。近所のスーパーでは、店の中に買い取り業者の臨時出張所ができました。金製品の買い取りは、ものすごい勢いで全国に広がっているでしょう。買い取られたネックレスなどは、その後どうなるのか。どのくらいの量なのか。

 リヒテンシュタイン在住で金取引に詳しいロニー・ストーファーレ氏は最近、世界の金リサイクル(再生)についてレポートを発表しました。このレポートによると、世界の金市場に供給される金地金のうち、4分の1余りは再生品で、このところ増加が目立っています。

 昨年の金地金の取引量は世界で約4600トンでした。しかし、金鉱山から掘り出して精錬される金地金(これを鉱山金といいます)は約3500トンで、ずっと横ばいです。新しい鉱脈を発見してから金を出荷できるようになるまで10~15年かかりますが、金価格が長い間、押し下げられていたので、新しい金鉱山の開発が止まっていました。

 不足分の1100トン余を供給したのは、宝飾品などを鋳造し直してつくった再生金でした。金価格が上がるにつれて再生金は増え始め、2022年に取引量の23.8%だったのが、上のグラフのように、24年は27.6%を占めるようになり、今年上半期は28.7%へと急増が続いています。

 再生金の原料の90%は、ネックレスや腕輪などの宝飾品です。この比率は地域によって差があり、金製品を愛好するインドや中国、アラブ諸国では高く、欧米では低くなります。

 ふつうの「再生品」には悪いイメージがつきまといますが、金地金の場合は逆に「地球環境に優しい」というプラスの価値が加わります。鉱山から産出される金は、1オンスの製造ごとに約1トンのCO2を排出しますが、鋳造し直すだけの再生金の場合、CO2の排出量は90%も減るからです。

 このため、ティファニー、プラダ、ショパールなどのジュエリー・ブランドは「再生金だけでつくった」ことを強調するようになりました。新興ジュエリー企業の多くも再生金だけを素材に使っており、いまや宝飾業界の新トレンドになっています。

 再生金の原料として新たに注目されているが、スマホやパソコン、サーバーなどの電子機器です。スマホは1台に約30mgの金が使われ、サーバーだと最大1gの金が使われています。精錬と分離の技術が進んだため、電子製品の廃棄物からの再生金が急速に増えました。

 ゴールド・ブリオン社の調査によると、1位の米国では2022年に4100万トンの電子廃棄物から13.8トンの金を取り出しました。2位の中国は6.7トンを抽出しました。米国の金再生では、アサヒ・リファイニングなど日本企業も活躍しています。

 金の再生は、はるかな昔から使われてきた技法です。人類の歴史において、現在までに掘り出された金は合計で21万6000トンとされています。地下に眠っていて採掘可能な金は6万4000トンです。それを図示した下のイラストを見てください。

 掘り出した金の総量は、体積で見ると高さ22mの4階建のビルとほぼ同じです。地下の金は高さ15mの2階建の建物とほぼ同じです。驚くべきことに、これまでに掘り出した21万6000トンのうち、現存している金は20万トン以上と言われています。数千年の歴史を経たのに、どこかに消えた金は1万数千トン、5%ほどしかないわけです。

 その理由は、人類の歴史の初めから「金が貴重なもの」と認識され、交換されたり、用途が変わったりしても、鋳造し直して、たいせつに扱われてきたからです。人びとに行き渡るだけの十分な量があり、何度でも再生できて価値を失わない。その特質があるからこそ、金は人類の歴史とともに「おカネ」として使われてきたのだと思います。(グラフはincrementum、イラストはVisual Capitalist、サイト管理人・清水建宇 )

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