通貨崩壊のイランが頼るもの
ベネズエラの陰になって、あまり報道されなくなりましたが、昨年暮れからイランで続いている反政府デモは、世界経済に大きな影響を与える恐れがあります。トランプ大統領がほのめかした武力介入も、まだくすぶっています。
イランの石油埋蔵量は世界第3位。ベネズエラと違って、油田は良く整備され、一日平均320万バレルの原油を生産しています。これは世界の4%を占め、世界で第6位の産油国になっています。厳しい制裁を受けながらも、「影のタンカー船団」を組織し、中国などへの輸出を続けてきました。
昨年暮れ、この国で政権を揺るがす大規模な抗議デモが始まったのは、通貨リアルが急落したからです。核兵器の開発疑惑が浮上し、国連安保理で制裁が決議されてから20年近く、6000もの制裁が課せられて、じわじわ下がってきた為替相場は、7年ほど前から大きく下がるようになりました。

現在の公定レートは1ドル=4万2000リアルです。しかし、今回の抗議デモで市場レートでは1ドル=145万リアルになってしまいました。日本円で換算すると、1リアル=0.0001円です。「通貨崩壊」はけっして大げさではありません。
バザールの商人たちは、通貨下落のスピードが速すぎて、商品の値上げが追いつかず、店を閉めて抗議デモを始めました。これに学生や労働者が加わり、各地に広がるにつれ、怒りは「制裁利得者」に向けられました。一部の政府高官と家族が、経済制裁を利用して金儲けをしていると言われ、抗議は政府に向けられるようになったのです。
イラン人は昔から金を尊重しており、金で資産を守ろうとする人は少なくありません。しかし、通貨下落で小さな金貨が15億リアルに跳ね上がり、庶民は手が出せなくなりました。金に代わって多くの人が頼ったのはビットコインです。
ビットコインの最小単位は「サトシ(Satoshi/sats)で、1ビットコインの1億分の1を表します。今の価格(1BTC=1400万円)だと、1サトシ=0.14円なので、買い物や支払いにも使えます。念のために書くと、ビットコインのソースコードでは、全て「サトシ」単位で示されています。
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イランでは、かなり前からビットコインを採掘する人が増え、何と「精鋭」と言われるイスラム革命防衛隊も多額のビットコインを取引しています。暴落するリアルでは革命防衛はできない、ということでしょうか。イラン政府も採掘に使う電力料金を補助して後押ししてきました。

問題は、政府の認可を受けずに採掘をする闇業者が急増したことです。ビットコインの調査会社Cripto Trillionnによると、イランには42万7000台の採掘機があり、その95%が無認可業者のもので、電力供給の安定を脅かしています。
首都テヘランでは、4年前に大規模な停電が3時間続き、イラン政府は「主な原因はビットコインの採掘だ」と説明しました。電力会社は、イランが暗号資産の採掘拠点として世界で第4位であると認めました。
イランでは、政情不安が高まった2025年、ビットコインを中心とする仮想通貨市場で取引が急増し、1兆2300億円規模に膨らみました。また、抗議デモが激しくなった今年1月には、取引所からビットコインを自分のウォレット(電子財布)に移す人が急増しました。
イラン情勢の今後は、どうなるか見通せません。ただし、ベネズエラと違うのは、中国とロシアが支援を具体化していることです。1月9日から14日にかけ、中国の5機の大型輸送機がイランのホメイニ空港に着陸したことが確認されています。ロシアのプーチン氏は、イスラエルのネタニヤフ首相とイラン大統領とそれぞれ電話で話し、沈静化に務めました。トランプ氏もトーンダウンしました。しかし、米国の空母打撃群が近づいています。
通貨リアルが持ち直す気配はありません。火種は残ったままで、「小休止」しただけです。(写真はブルームバーグとイラン国営通信、サイト管理人・清水建宇)
