米国の金保管庫の監査はどうなった?
世界金評議会が毎月公表している国ごとの公的な金保有量で、米国はずっと「8133トン」とされ、ダントツの世界1位です。しかし、これは各国が自己申告した数字であって、確認されたものではありません。米国では50年近くも本格的な監査が行われておらず、「ほんとうにあるのか」と疑問視する声が相次いでいました。
そこにトランプ大統領の衝撃的な発言が飛び出しました。ことし2月21日、「私はフォートノックスを訪問する」と述べたのです。米国の金塊の6割を保管している最大の保管庫です。トランプ氏と親しいマスク氏も「ぜひ」と同調しました。

――ここまでは3月1日号の「おカネの風景・米国の金保管庫に金はあるのか」で書いたことです。あれから4カ月経ちましたが、トランプ氏が訪問する動きはまったくありません。トランプ氏本人も、後押ししたマスク氏も、口をつぐんだままです。
50年間も「タブー」だった大統領の金保管庫「訪問」発言は波紋を広げました。しかし、金保管の責任者であるベッセント財務長官が「金は存在する」と繰り返し述べて、「火消し」に務め、トランプ氏は2月26日を最後に発言を止めました。
ベッセント長官はいろんなインタビューで主張しています。「私たちは毎年、金保管庫の監査をしています。いま、テレビカメラの前で国民の皆様にお伝えできます。2024年9月30日時点で、すべての金がそこに保管されているという報告がありました」
財務長官がいくら力説しても、監査を求める声は収まりません。6月6日、トーマス・マーシー、ウォーレン・デビッドソン、アディソン・マクドウェル、トロイ・ニールズの4人の共和党下院議員は。米国が保有する金の監査を義務付ける「2025年・金準備透明性法」案を共同提出しました。
提出した議員たちは、「この法律は、トランプ大統領が求め、米国民が期待する完全な情報公開を実現するでしょう」と高らかに述べています。政権与党である共和党議員の法案であるため、法案への関心は小さくないですが、しかし、米国では政権幹部の判断次第で、過去の監査要求法案と同じように、この法案も「棚ざらし」にして葬ることができます。
米政府はなぜ「本格的な監査」を拒み続けるのか。なぜ「金は存在する」と力説するのか。この2つのナゾを解く答として、「金は貸し出された」説が広がっています。例えば、通貨について多数の著書があるジェームズ・リッカーズ氏は6月9日、次の記事を投稿しました。
――トランプ大統領が訪問を撤回した理由を考えるとき、重要な疑問は「金がリースされたかどうか」です。金を貸し出せば、年2%程度のリース料を受け取れます。金は運び出す必要がなく、保管庫に置かれたままでいい。完全に紙の上だけの取引です。
金を借りた側は「再担保権」を保有し、同じ金を別の人にリースできます。別の人はまた同じように金を貸し出すことができます。こうした再担保リースを繰り返すことにより、1トンの金で100トン分の「紙の金」取り引きが可能になります。
このような「紙の金」取り引きの現実を、誰か(おそらくベッセント長官)がトランプ氏とマスク氏に辛抱強く説明したのでしょう。だからトランプ氏はフォートノックスを訪れることはないでしょう。――
つまり「金は保管庫にある」が、実際の所有者は「借り受けた金融業界」だ、というわけです。このことは、金取引業界の重鎮たちも以前から指摘していました。ロンドンで3代にわたり金取引業界の中枢にいたピーター・ハンブロ氏は3年前、一部の金融機関は長い間、リースで得た「紙の金」を先物市場で売り浴びせ、金価格を押し下げて、ドルの価値が維持されているように見せかけてきたと暴露しました。
ハンブロ氏の証言は、昨年秋の「おカネの風景」でも紹介しましたが、「紙の金」は金融派生商品のデリバティブにも利用され、いまや天文学的な金額に膨れ上がっています。ハンブロ氏は「大きな嵐の前兆だ」と警告していました。
保管庫に金が存在していたとしても、それを使うことができないとしたら、37兆ドルもの債務を抱えた米国政府は、どうやって財政を再建するのでしょう。そこでトランプ政権が取り組んでいるのが、仮想通貨で米国債を買わせるという奇策です。次回、その仕組みをくわしく説明しましょう。(写真はYouTubeから、サイト管理人・清水建宇)