番外編:スペイン大停電は予想外の原因で起きた
現地時間の4月28日正午過ぎ、スペインやポルトガル、フランスの一部で大規模な停電が発生し、一夜明けて、ようやく復旧し始めました。私はバルセロナで豆腐屋を営んでいたことがあり、今も手伝っているので、他人事ではありません。
日本の新聞は、発生と復旧を短く伝えただけですが、この停電は平時における歴史上最大級の被害をもたらしたと、欧米は注目しています。インターネットとデジタル化が社会のすみずみに行き渡った結果、停電で社会機能がマヒしてしまったからです。
鉄道や地下鉄など交通機関はすべて止まり、金融システムは停止。上水道や下水道、浄水システムも止まりました。市民は買いだめに走りましたが、自家発電装置を供えた一部の店しか営業せず、混乱が続きました。携帯用の外部充電器は奪い合いになり、買い占め業者によって1個の値段が一時は160万円まで吊り上げられました。経済学者の試算によると、被害額は数千億円にのぼるそうです。

スペイン政府は、停電の原因について明言していません。サンチェス首相は、「外部からのサイバー攻撃の可能性」を否定せず、捜査を指示しました。スペイン最高裁は、停電がサイバー攻撃によるものかどうかの捜査資料を「機密文書」に指定したので、捜査の内容は公表されません、政府はいつまでも「サイバー攻撃の疑い」をちらつかせることができます。
しかし、米通信社のブルームバーグ、米国のネット誌「PUBLIC」などが、配送電システムに何が起きたかを詳細に調べ、原因はほぼ明らかになっています。
停電当時のスペインの主な電力源は次のような構成比率でした。
・太陽光発電+風力発電―――――――78%
・原子力発電――――――――――――11%
・コジェネレーション(排熱回収式)― 5%
・ガス火力発電― ―――――――――― 3%
このうち、太陽光発電の比率はきわめて高く、しかも日差しの強弱によって変動しやすい特徴があります。4月28日12:30には発電量の55%を占めていましたが、その後、急に低下しました。太陽光発電で得られる電力はインバーターで他の電力と同期されますが、一定以上の電圧変化があると、システムを保護するために自動的に遮断される仕組みです。
これを防ぐために、火力発電や原子力発電などの安定した電源(「ベースロード電源」と呼ばれます)を使って、システムの電圧を細かく調整する必要があります。しかし、変動しやすい自然エネルギー電源の比率があまりにも高いため、4月28日は調節しきれませんでした。
最初の変動は100分の1秒で安定を回復しました。しかし、1秒半後に第2波が襲い、3秒半後にはシステムが不安定になり、連鎖的に停電が広がりました。フランスから電力の供給を受ける連携線も機能停止しました。原子力発電所は外部電源を失ったため停止し、火力や水力の発電所も安全のためにオフラインにされました。
復旧は、安定したベースロード電源の立ち上げから始めます。しかし、発電量が多い水力発電は、5カ所のうち3カ所が同時に定期修理中だったので稼働できず、復旧が遅れてしまいました。太陽光や風力発電の比率が異常なほどに高く、安定電源の水力発電が担う役割が大きいのに、そのことをスペイン政府は考えなかったのでしょう。
ポルトガルのモンテネグロ首相は「サイバー攻撃」をはっきり否定しました。スペインの電力網を運営するレッド・エレクトリカ社も「制御システムに対する干渉を示すものはない」と否定しました。
外部からの「サイバー攻撃」をにおわせているのはサンチェス首相だけです。政策ミスだと政権が危うくなるから、矛先をかわそうと必死なのでしょう。しかし、政府が大停電のほんとうの原因から目を背ければ、いつまでたっても配送電システムは改善されません。ということは、大停電がまた起きるということです。
バルセロナの豆腐屋を手伝っている私としては、「サンチェスさん、原因隠しはもうやめて、電力システムを改善してください」と言いたくなります。(写真はTBSニュースから、サイト管理人・清水建宇)