暗号通貨、「金曜日の大虐殺」
暗号通貨の代表であるビットコインは、9月末から上昇を続け、10月7日には12万5000ドルに達して、過去最高値を超えました。暗号通貨業界は大喜びしました。ビットコインは以前から「デジタル・ゴールド」と呼ばれていましたが、ある取引業者は「これからは金を”天然のビットコイン”と呼ぼう」と、SNSに書き込みました。主従逆転です。
それからわずか3日後の10月10日、暗号通貨は発足以来最大の惨劇に見舞われました。この日が金曜日だったので、債券が暴落した「1994年の大虐殺」にちなんで、「金曜日の大虐殺」と報道したメディアもありました。いったい何が起きたのか、米ブルームバーグ通信の記事で、詳しく見てみましょう。

トランプ米大統領は10月10日、「中国に対して11月1日から100%の追加関税を課す」と発表しました。米中貿易戦争の激化が予想されたため、ビットコインは値を下げ始め、夕方からは一直線で下がる「暴落」となりました。一日の下げ幅は一時1万5000ドルに達し、下落率は10%を超えました。
金融市場の急落は珍しいことではありません。問題は、暗号通貨取引の特殊性にあります。多くの人が投下資金の10倍、20倍、あるいは50倍ものレバレッジ(梃子)を掛けており、上昇時には大儲けできるが、下落時には大損する、賭博のようなやり方で暗号通貨を取引しています。
取引会社は、投資家が大損したときに、その損失額を回収できるよう、値下がり幅がある比率を超えると、投資家の取引を打ち切り、強制的に清算してしまいます。これを「ロスカット」と言います。
10月10日の午後から翌日にかけ、24時間で少なくとも160万人がロスカットに追い込まれました。清算によって取り消された「買い」の建て玉は190億ドル(約2兆9000億円)にのぼります。文字通り、消滅です。取引所のひとつ「トレッド・ファイ」の経営者であるデビッド・ジョン氏は「ブラック・スワン(予測不能の異常事態が)だ」と言いました。
金の分析家のジェシー・コロンボ氏は、トランプ大統領の「関税100%」発言によって、暗号通貨と株式が、それぞれどのように動いたかを調べました。下のグラフは新興企業の株式指標である「ナスダック100」とビットコインの値動きを表したものです。横軸の目盛りは10日午前0時から16時までの時刻、縦軸の目盛りは0.5%刻みの値下がり幅です。

このグラフで分かるように、ビットコインと新興株は、ほとんど同じ軌跡をたどりました。ナスダック100は、企業の実績よりも将来性を重視する株式の市場です。リスクは高いが、値動きが激しくて、儲けるチャンスも多い。米国の人たちにとって、この新興株とビットコインは同じ範疇の投資対象なのでしょう。
しかし、金は違います。トランプ発言で、一時1%ほど下がりましたが、すぐ上昇軌道に戻りました。ロンドンの現物市場は、先週末よりさらに200ドル以上高い4250ドル近辺で、今週の取引を終えました。

金・銀の貴金属は、暗号通貨とまったく似ていません。それどころか正反対です。米中の貿易戦争が激化するかもしれないという危機に直面したとき、ビットコインなどの暗号通貨は売られ、金と銀は逆に買われたのです。
「だから」と、ジェシー・コロンボ氏は言います。「ビットコインを”デジタル・ゴールド”と呼ぶのは、もう止めましょうよ」(図像はブルームバーグ、グラフはJesse Colombo、サイト管理人・清水建宇)
