怪談:ウガンダの「超巨大金鉱山」
アフリカの東部、ナイル川の源流であるビクトリア湖に接して、ウガンダという国があります。日本の6割ほどの面積に、約5000万人が暮らしています。1962年に英国から独立し、現在も英連邦に加盟しています。
2022年7月、このウガンダで巨大な金鉱が発見されたというニュースが流れました。エネルギー鉱物開発省のソロモン・ムイタ報道官が、ロイター通信に対して、2年間にわたる全国的な調査の結果、巨大な金鉱が発見されたと明らかにした、というのです。
この金鉱の採掘可能な埋蔵量は3100万トンで、鉱石の品位は1トンあたり10,000グラム。単純計算で32万トンの純金を産出することになります。ロイター通信の記事は「ウガンダ政府は、この金鉱山を開発するために、大手投資家を誘致する意向を表明している」と結ばれていました。
当時の金価格は1トロイオンス(約31g)=1725ドルでした。これで計算すると、32万トンは17兆ドルになるはずですが、なぜか「12兆ドル以上の金鉱山が発見された」として下記のようなニュースが世界に広がりました。

しかし、金の取引業者らは、このニュースを無視しました。余りにも突拍子もない数字だからです。例えば、人類が金を貨幣として使い始めてから3000年近い歴史において、世界中で掘り出された金塊は、約20万トンに過ぎません。競泳用のプールで4杯分ほどです。その1.6倍もの金塊が、ひとつの鉱山から産出されるとは思えません。
鉱石1トンあたり金10,000gという品位も、常識外れです。当時、世界で最も品位の高い金鉱山は、オーストラリアにあるアグニコ・イーグル社のフォスタービル鉱山で、高いときでも鉱石1トンあたり40gでした。下の写真がその鉱山です。その250倍も品位が高いということは、鉱石そのものが金色に輝いているはずです。そんな鉱脈が、いままで見つからなかったということはありえない、というのが、金業界の反応でした。

やがて、「巨大金鉱山発見」のニュースの前に、ウガンダ政府は新たな鉱山法を制定し、国内のすべての鉱山から自動的に15%の権益を取得することを決めていたことが判明しました。世界の投資家から資金を集め、濡れ手にアワで15%をいただこうという計画ではないか――という疑惑が生まれ、この話はいったんおしまいになったのです。
ところが、今年になって、あちこちの投資家向けのウエブサイトに「ウガンダの超巨大金鉱山」の話が再び取り上げられるようになりました。日本の掲示板にも載りました。
「どうやら数年前に13兆ドルの(原文のまま)金がアフリカで見つかったらしいな」
「俺も同じこと考えたんだよね。でもウガンダはまだ世界銀行からお金借りてるし」
「焦らないで、同僚たちよ、金はやってくる」
「中国の精製会社に契約を与えたんだ、多分」
「速報:米国がウガンダに侵攻、数ヶ月以内に核兵器を持つと信じているため」・・・
なぜ、3年もたってから、この途方もない「巨大金鉱山」の話がネット上で蒸し返されているのでしょう。金分析家のマイク・ハマリー氏は、次のように推理しています。
「もしかしたら、金の現物取引に強気にならないでほしいと願っている人たちが、この話を何度も繰り返しているのかもしれません。例えば、暗号資産の取引業者や、金には価値がないと信じ込ませようとしている政府の関係者です。もしも、このような巨大金鉱山が見つかれば、金には希少価値はなく、したがって金価格も下がるわけですから」
米国のトランプ政権は、ことし7月18日、GENIUS(ジーニアス)法案に署名し、暗号資産ステーブルコインに関する初の連邦法を成立させました。フォーブズ誌は「デジタル金融で世界の主導権を握るという米国の方針を示すことになった」と報じました。
暗号資産で金融の覇権を握りたい米国にとって、欧米以外の国の中央銀行が準備資産の米国債を売り、せっせと金塊を買い集めていることは、腹立たしいことでしょう。「金は邪魔だ」と言って安く売り払った英国や、金準備をゼロにしたカナダなどの英連邦の国も、金価格の上昇を苦々しく思っているでしょう。「容疑者」はけっこういるなと思います。(写真はTechTimes、Agnico Eagle Mines、サイト管理人・清水建宇)