「金」の眼鏡で見た おカネの風景

人命も石油も賭けの対象に

 あらゆることを賭けの対象にする「ポリマーケット」が米国で誕生したのは6年前です。共和党と民主党がしのぎを削った24年の大統領選挙では、どちらが勝つかに31億ドル(約5000億円)が賭けられ、トランプ氏が高い勝率を得て、話題になりました。

 ポリマーケットには管理者がおらず、参加者が賭けのテーマとオッズを決め、結果を当てた人たちに暗号通貨を払う仕組みです。「何でも賭けの対象にする」は、ますます勢いを増し、イラン戦争では、240ものテーマが設定され、人びとが群がっています。

 しかし、そのうちの2つは問題が指摘されました。ひとつは、米軍機がイランで墜落し、山間部に逃げた乗務員について、「4月4日までに救出されるかどうか」の賭けです。この賭けについて、米国のセス・モールトン下院議員は「実に忌まわしい」とSNSで批判しました。「救助を待っている乗務員は、だれかの家族、隣人、友人なのに」と。

 ポリマーケット側は、すぐモールトン議員に返信しました。「この賭けは、当社の公正性基準を満たしていないので、ただちに削除しました。なぜ基準をすり抜けたのか調査中です。」

 2つ目の問題は、「米国がイランへの空爆を始めるのは何日か」という賭けです。米国とイランの交渉が続いていたため、「2月28日」に賭けた人はわずか6人でした。しかし、空爆はこの日に始まり、6人は120万ドル(約1億9000万円)を手に入れました。

 おかしいと思った分析企業のBublemaps社は、彼らのアカウントを追跡し、以前にもトランプ氏がイランの核施設を攻撃するかどうかで利益を上げていたアカウントと同じであることを突きとめました。賭けの参加者からは「運がいいのではなく、情報を得ていたんだ」という怒りの声がSNSに流れました。

 考えてみてください。もしもトランプ氏が、次にどんな行動をするか、どんな発言をするか、その情報を事前に知る人々がいたとします。その人びとは、ポリマーケットの10倍、100倍もの巨額資金が動く株式や石油の先物市場を狙うのが当然ではないか。

 その疑問は現実となりました。3月23日、トランプ氏が「イランの発電所への空爆を延期する」とSNSで発表したとき、その15分前から原油先物市場が急落し始め、わずか2分間で7億6000万ドル(約1200億円)も儲けた人たちがいました。

 同じ瞬間に、米国株式の代表的な指標であるS&Pの先物取引でも、大統領の発表前に15億ドル(2400億円)の信用買いがあり、ここでも大儲けした人たちがいました。クリス・マーフィー上院議員は「誰なんだ、ホワイトハウスの職員か。これは汚職だ」と投稿しました。

 4月8日、「イラン文明を消滅させる」と息巻いていたトランプ氏は、一転して2週間の停戦を発表し、世界中で株価が急騰しました。このときも、発表の数時間前に、代表的な株式指標のS&P先物市場で、正体不明の投資家たちが6800単位の「信用買い」をし、大儲けしました。

 イスラエルでも同様です。今年2月、イスラエル治安当局が「2人がポリマーケットで軍事作戦に関する賭けを行っていた」と発表しました。容疑の詳細は明かしませんでしたが、3月末に裁判所が一部を公開しました。それによると、空軍予備役の少佐らが昨年6月の「12日間戦争」の前日、イラン空爆の正確な日時を当て、16万ドル(約2600万円)を得ていたのです。

 ハーレツ紙によると、被告の少佐は「飛行隊全体がポリマーケットに参加している。空軍全体が賭けている」と尋問で述べたそうです。

 上場企業の場合、幹部らが知り得た情報をもとに株の取引をすることは「インサイダー」規制で厳しく禁じられています。戦争の攻撃や停戦の情報をいち早くつかんで大儲けすることも、インサイダー取引と言えるでしょう。

 それにしても、市民や子どもまで虐殺し、住居を破壊する攻撃を賭けの対象にして、指導者に近い一部の人間だけが私腹を肥やすのは、歴史上、初めてでしょう。イラン戦争は、人類が進歩したことを示しているのでしょうか。それとも人類が「退廃の極み」へと堕ちつつあることを示しているのでしょうか。(図はポリマーケット、Finam、サイト管理人・清水建宇)

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