「金」の眼鏡で見た おカネの風景

中国が世界の銀塊を吸い上げる

 先物市場で銀が暴落したのは1月30日でした。先物市場の取引額は巨額なので、ロンドンの現物市場も先物に引きずられ、銀塊のスポット価格は大きく下がりました。それから3週間経ち、2月20日のロンドン現物市場は1オンス(約31g)=84ドルまで値を戻しました。

 私たちが経済新聞などで知る銀の現物価格は、このロンドン市場の数字です。しかし、世界の実勢価格は今や中国の上海市場が動かしています。ロンドンよりはるかに大量の銀が、ロンドン価格にプレミアムを上乗せした高い価格で売買されているからです。

 昨年末、上海の上乗せプレミアムはロンドン価格の12~13%に達しました。この上乗せは今も続いており、アジアでは常態化しています。日本最大のフリーマーケットである「メルカリ」では、「銀1kg」のインゴットが出品され、30%の上乗せ価格が提示されました。湾岸のドバイでも40%上乗せして売買されています。

 現物の銀価格の上昇は、供給が需要に追いつけないことが主な原因です。世界の鉱山から産出される銀は、この10年間、減り続けています。銀の7割は他の金属の副産物として取り出されるため、需要が増えても増産されません。

 また電気や熱の伝導率が高いので、エレクトロニクスの素材として工業需要が半分以上を占めます。銀をたくさん使う太陽光発電パネルなどが急増し、工業需要は伸びる一方です。工業に使われた銀は、あとで取り出して再生することが困難です。金は古来、何度も再生されて使われ、過去3000年間に採掘された金の95%が再流通していますが、工業用の銀はほとんど廃棄されてしまい、市場には戻りません。

 こうした供給の問題を熟知している中国は、投資家が銀に注目するずっと前から、現物の銀を吸い上げる方策を講じてきました。

 その一つは、銀の精錬所を国内で増やしたことです。投資用の銀は、ロンドン貴金属市場協会の認定と純度99.9%を求められますが、その規格に合うよう精錬します。中国は世界の精錬能力の6割を占め、投資用の純銀の世界最大の供給国になりました。

 もう一つは、世界の鉱山が産出する純度の低い「粗製銀(ドレ―銀塊)」を買いあさり、原料を確保したことです。それを国内の精錬所で純銀に加工するわけです。近年、欧米や他のアジア諸国がドレ―銀塊を求めて鉱山と交渉を始めましたが、中国とは長期契約を結んでいるため、ほとんどの鉱山は応じませんでした。

 精錬能力と原料を握る中国は、今年1月1日、現物銀の輸出規制に踏み切りました。年間80トン以上の精錬能力を持ち、政府の認可を受けた大手企業の44社だけに輸出を認め、数百にのぼる中小業者は輸出を禁止しました。中小業者は世界の銀取引業者にとって、重要な銀塊の供給源でした。認可された大手も、中国政府のコントロール下にあります。

 この輸出規制について、中国の国営メディアは「銀をふつうの商品から戦略物資に格上げし、希土類金属と同じような扱いにするものだ」と報道しました。また銀取引の専門家は「中国が銀の世界的な価格決定力を握るためだ」と分析しました。

 中国は、プレミアム価格の上乗せや粗製銀の買い占めにより、世界中から銀の現物を吸い上げ、その出口である輸出を規制することで、現物銀を武器化しようとしていると言っても過言ではありません。

 欧米では、先物市場の信用取引や、銀の上場投資信託証券(ETF)などの「紙の銀」売買に夢中になっていますが、それらは現物の銀の上に組み立てられた脆い楼閣です。現物は、中国が支配を強めています。

 中国の狙いは、米国と英国が牛耳ってきた貴金属取引の実権を奪うことでしょう。「本命」である金に対しても、中国は同じ戦略を進めています。(写真はメルカリ、Moneymetals。サイト管理人・清水建宇)

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