「金」の眼鏡で見た おカネの風景

ポーランドの金は欧州中央銀行を超えた

 ヨーロッパの北東部にポーランドという国があります。東はロシアの同盟国であるベラルーシ、そしてウクライナに接し、南はチェコなど、西はドイツと接しています。首都はワルシャワで、日本よりやや小さい国土に3800万人が住んでいます。

 このポーランドの中央銀行のアダム・クラビンスキ総裁は今年5月、「準備資産として公的に保有する金が509.3トンに達し、欧州中央銀行が保有する506.5トンを上回った」と発表しました。

 欧州連合(EU)に加盟する27か国のうち、ドイツやフランスなど20か国が共通通貨「ユーロ」を導入しており、欧州中央銀行は「ユーロ」の発行と20か国の金融政策を遂行するために設立されました。世界でも、米国の連邦準備制度に次いで大きな影響力を持っています。それを上回る量の金をポーランドが1国で保有しているというのです。なぜでしょうか。

 EUに属しながら「ユーロ」を導入していない国は、ポーランド、デンマーク、チェコ、ルーマニア、スウェーデンなど計7カ国あります。ポーランドの場合は「独自通貨のズウォティを保持し、金融政策の自主性を保つべきだ」という国民の意志が強く、ユーロの導入には憲法改正が必要なこともあって、ユーロ導入を拒んできました。

 ポーランドは第二次大戦でナチスドイツに占領されました。ユダヤ人など110万人が虐殺されたアウシュビッツ強制収容所は、ポーランドにありました。戦後はソ連圏に組み込まれましたが、国民が抵抗して離脱し、「欧州の一員」として発展してきました。こうした苦難の歴史があるために「強い独自通貨と自主的な金融政策」へのこだわりが強いのです。

 強い通貨とは、国民だけでなく世界各国からも信認される通貨です。信認されるには、中央銀行が手厚い準備資産を保有することが必要です。その準備資産として、米国も欧州も、そして日本も「国債」を中心とする債券を主に保有しています。だから、ドルやユーロや円などほとんどの通貨は「債券本位制」通貨と呼ばれます。

 ポーランド中央銀行は、こうした考え方に異を唱えています。クラビンスキ総裁は「債券は借用証です。しかし、金はそれ自体に価値があります。いかなる国の経済政策によっても価値が下がりません。非常に耐久性があり、破壊することはできません。そして中央銀行は最も危機的な状況に備えておかなければならないのです」と語りました。

 ポーランド中央銀行の公的な金保有量は、1996年にはわずか14トンでした。その後徐々に増やし、クラビンスキ総裁の就任で「準備資産の20%を金に」という目標を掲げました。23年には130トンを購入して世界の中央銀行で2位になり、24年には1位になりました。今年も1~3月の第1四半期に49トンを購入し、世界1位の座を守っています。

 以前はロンドン市場で金を購入し、それをロンドンに預けていました。しかし、独自通貨ズウォティ100周年にあたる2019年、購入した100トンを英国からポーランドに空輸し、自分の国で保管するようにしました。1本12.5kgの刻印付き金塊を1000本ずつ輸送機に積み込み、8回に分けて運ぶ大がかりな作業でした。「本国で保管してこそ、金を危機に役立てることできる」からです。

 ポーランドの金保有量が欧州中央銀行を上回ったことが報じられてからまもなく、もう一つの興味深いニュースが流れました。世界の中央銀行の準備資産は、長らく米ドル資産が1位、ユーロ資産が2位でしたが、24年に金がユーロを抜いて2位に躍り出たのです。

 欧州中央銀行の資料をもとに米CNBCが調べたところ、昨年末の世界の中央銀行の準備資産は、米ドルが47%、金が約20%、ユーロが約16%のとなり、金が浮上しました。しかし、詳しくみると、米ドルが減った分、金が増えたかたちであり、「ドルの凋落、金の躍進」なのだそうです。

 ユーロの発行元である欧州中央銀行の保有量を上回る金塊を、たった一国で保有しているポーランド。ますますユーロに目を向けなくなるでしょう。世界の中央銀行が「金」に向かう動きは、まだ続きそうです。(写真はポーランド中央銀行、サイト管理人・清水建宇)
   

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