ベネズエラ、金とBTCの謎
年明け早々、米軍は南米ベネズエラの首都を急襲し、マドゥロ大統領夫妻を拘束して米国に連行しました。ニューヨークの法廷に立つマドゥロ夫妻の画像が世界中で報道され、正月気分が抜けない多くの人を驚かせました。
この急襲のために、米CIAなどの情報機関は昨年夏からマドゥロ氏の周辺に諜報員を潜入させ、生活習慣などを把握するとともに、公邸の正確な模型を実寸大でつくり、襲撃訓練をしたと伝えられています。米軍側の死者がゼロだったことは、その成果なのでしょう。しかし、米情報機関の内部では、いま「焦り」の色が濃くなりつつあるのだそうです。
マドゥロ氏が不正に蓄財して隠した巨額の財産が、行方不明のままだからです。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのベテラン記者たちがつくったニュースサイト「ホエール・ハンティング」が、この謎に挑みました。二人の記者の取材結果を紹介しましょう。
ベネズエラでは1999年、「21世紀の社会主義」を掲げたチャベス氏が大統領に就任し、貧困層の支持を受けて政権を維持しましたが、2013年に病死し、副大統領だったマドゥロ氏が後を継ぎました。しかし、物価高と経済破綻で国民の不満は高まるばかり。1期目の終盤の2017年には与党だけの「制憲議会」を強行成立させ、1党独裁に踏み切りました。

不正蓄財は、このころから本格化したようです。マドゥロ氏は金に着目しました。ベネズエラの南部には金鉱山があり、鉱石は金が露出するほど高い品位です。この金鉱石の採掘と精錬を一気に拡大し、2018年だけで73トンの金塊を製造し、ひそかにトルコ、UAE(アラブ首長国連邦)、イランなどへ運んで換金させました。
そのおカネは、追跡不可能なものに換えなければなりません。マドゥロ氏から不正蓄財の隠匿作戦を任されていたアレックス・サーブという人物は、暗号通貨のビットコインに換えました。トルコやUAEなどには、資金の出どころを質問せず、銀行を経由しないで資金を処理する業者がたくさんいます。サーブ氏のビットコインは「ミキサー」というソフトウエアにかけられた後、政府や取引所の手が届かないオフラインの保管デバイスである「コールド・ウォレット」に移されました。アクセスに必要な電子キーを知る人は、サーブ氏だけです。
サーブ氏は1971年、コロンビアに産まれ、いま54歳。小さな繊維会社を経営していましたが、麻薬密売業者と知り合い、その縁で知遇を得たコロンビアの国会議員から、ベネズエラの副大統領だったマドゥロ氏を紹介されました。この出会いがサーブ氏の運命を変えます。
2011年、ベネズエラ政府から貧困層向けのプレハブ住宅2万5000戸分の資材輸入を依頼されましたが、代金だけ持ち逃げしました。困窮者のための食糧輸入事業では、海外から品質の悪い食品をかき集め、法外な価格で納入して大儲けしました。
これらの事件を捜査した元検察官は「サーブ氏はベネズエラの政治家や企業とまったくつながりがなく、金儲けだけを目的に大統領一家とつながっていた。だから、かえって大統領に信頼されたのだろう」と語っています。
不正蓄財を管理するには、海外へも自由に行き来する必要があります。そこでマドゥロ大統領は2018年4月、サーブ氏を「共和国を代表して行動する広範な権限を持つ特使」に任命しました。自分の汚れたカネの守護者を外交官に仕立てたのです。

ベネズエラの金を中近東で換金するには、だれかが精錬所から持ち出し、小型機で運び、通関手続きをしなければなりません。その任務を任されたのは、サーブ氏の右腕の麻薬密売業者の息子でした。つまり、サーブ氏は不正蓄財のネットワークをごく少数の身内だけでつくりあげたわけです。
彼らが隠した「汚れたカネ」はいったい、いくらなのか。「ホエールウオッチング」の記者たちは、次のように試算しました。
2018年当時、73トンの金塊は約27億ドル(約4200億円)でした。また、この年のビットコイン(BTC)は3000ドルから1万ドルの間で推移していました。もしも金塊を売った金で1BTC=5000ドルで購入し、今も持ち続けているとすれば、540億ドルに増えている計算です。不正蓄財は2018年だけだったとは考えられないので、記者は控えめに600億ドル(9兆3000億円)と推計しています。
このサーブ氏に対し、米国司法省は米国の銀行口座を悪用した資金洗浄の疑いで8件の起訴状を用意し、2020年6月、西アフリカ沖の島国に立ち寄ったサーブ氏を逮捕しました。彼は米国で収監されましたが、3年後に囚人の交換により釈放され、ベネズエラに帰還しました。マドゥロ氏はサーブ氏を歓迎し、すぐ閣僚に任命しました。
米国はなぜサーブ氏を釈放したのだろうか。記者たちが米国の裁判資料を調べたところ、サーブ氏は2016年から19年にかけて、米国の麻薬取締官らと6回も接触し、ベネズエラ政府高官への賄賂に関する情報を密告していたことが分かりました。つまり、米国の秘密の情報源になっていたので、早々と釈放されたのです。
サーブ氏は今、行方が分かりません。記事は、こう結ばれています。「アレックス・サーブはどこですか? 600億ドルのビットコインの鍵を握っているのはだれですか?」 (金鉱石の写真はresearchintell.、サーブ氏の写真はWhele hunting、サイト管理人・清水建宇)

ここまで詳しければ、デマやフェイクではないですね。マドゥロ大統領も困った御仁です。