トランプ氏の「金への深い愛情」
「米国の金保管庫を訪れるぞ」と高らかに宣言したのに、1カ月もたたないうちに口を閉ざしてしまったトランプ大統領。今の心境は分かりませんが、ビジネスマンだったころには「金への深い愛情」を隠しませんでした。
その原点には、最初の金の現物取引で大きな利益を上げた体験があるようです。米国の経済ジャーナリストであるニック・ジャンブルーノ氏によると、大恐慌以来、米国で禁止されていた金の個人所有が1975年に合法化されると、トランプ氏はすぐ積極的に金塊を購入し始めました。
当時の買い値は1オンス(約31g)=185ドル。トランプ氏は後に、金塊の取引を振り返って、こう述べました。「780ドルから790ドルで売りました。とても順調でした。ビルを建設するよりもラクでした」。短期間で4倍以上に値上がりしたのですから、嬉しかったはずです。
2011年、トランプ氏はウオール街40番地に70階建の高層ビルを建て、米国で最大級の貴金属商AMPEXに「ぜひ入居してください」と誘いました。自分が所有するオフィスビルで金が取り引きされることを望んだからです。
米国では商業ビルに入居する際、保証金を小切手で払うのが通例ですが、AMPEXのヘインズ社長は1フロアを借り切る賃貸契約を結ぶ際、保証金(20万ドル)として1kgの金塊3本をトランプ氏に手渡しました。

ヘインズ社長は「トランプ氏は賢い人だから、小切手より金塊で受け取るほうが良いと気づくだろう」と思ったのだそうです。トランプ氏は喜び、「オバマ大統領はドルの価値をまったく守っていない。私が金塊での支払いを受け入れれば、他の人も同じようにするだろう」という声明を発表しました。
2015年、米国の有名な雑誌「GQ」のインタビューで、トランプ氏は「金本位制の復活は困難でしょうが、それは素晴らしいことです。私たちはおカネのしっかりした基準を持つことができるのですから」と述べ、金本位制を公然と称賛しました。
別のインタビューでも、こう述べています。「私は金本位制が大好きです。堅固なものを持つことは、非常に利点があります。かつては金本位制に基づいた非常に堅固な国がありました。今はもう世界にそのような国はありません」
トランプ氏は昨年の選挙で大統領に返り咲きましたが、金への愛情は続いているようです。今年6月16日、一族で運営するトランプ・オーガニゼーション社は携帯通信サービスの立ち上げと、独自のスマホ「T1」の予約受け付けを発表しました。

この日は、2016年の大統領選挙に出馬宣言をしてからちょうど10年目の記念すべき日でした。その象徴ともいうべきスマホ「T1」は、ご覧のように表も裏も金色です。報道資料には「米国製」と書かれていましたが、米国でスマホを製造することは困難だと指摘され、今はウエブサイト上で「American-Proud Design(アメリカの誇るデザイン)」に修正されました。
そのデザインに対しても「下品な金ピカ趣味」との批判を浴びましたが、トランプ氏は「金への愛情」を込めたのだと思います。最初の金塊購入で大儲けしてから50年、金の「堅固な価値」に対する信頼は揺らいでおらず、今も深い愛情を抱いていることを、このスマホは示しています。
金保管庫を訪問すると発表したとき、トランプ氏は「もしも金がそこになければ、がっかりするだろう」と付け加えました。訪問の計画はつぶれてしまいましたが、その理由が「金が貸し出されてしまって、政府が手を出せない」ことであるならば、トランプ氏の落胆は想像以上に大きいだろうと思います。(写真はFirst on Fox誌、Trump Organizacion、サイト管理人・清水建宇)