グー(塊)はパー(紙)に勝つ
1月30日の金曜日、高騰を続けていた銀が先物市場で暴落しました。前日の1オンス(約31g)=120ドルから78ドルへ33%も下がり、1日の下落率としては過去最大を記録しました。金も同時に下がりましたが、下落率は12%ほど。銀の暴落は突出しています。

経済紙は「上がり過ぎたので価格調整された」と説明しています。しかし、たった1日で価格の3分の1も下落する「暴力的な調整」は、きわめて異例のできごとです。調べると、奇妙な動きが重なっていました。
銀の先物価格は昨年12月から上昇を始めました。1月に過去最高値の50ドルを超えると、勢いがさらに強まりました。上昇を後押ししたのは、先物市場で「信用買い」ポジションを積み上げた投資家たちです。わずかな証拠金を払えば、その何倍もの額を取引でき、梃子(レバレッジ)を利かせると、さらに大儲けできます。
一方、「下げに転じる」と見て、「信用売り」に賭けた投資家も大勢いました。一定の期間後に値下がりしたところで買い戻せば、差額が儲かる取引です。多くがやはり梃子(レバレッジ)を利かせて大儲けを狙いますが、裏目に出ると損失も巨額になります。
銀は下げに転じるどころか急上昇を続け、空売りした投資家たちは悲鳴を上げました。大手銀行の中にも、多額の空売りポジションを抱え、青ざめたところがいくつもありました。1月29日には、銀価格が117ドルに上昇し、売り方は崖っぷちに立たされました。
翌日、2つの出来事が起きました。まず、NY商品取引所は先物取引の証拠金を引き上げました。これは新たな「信用買い」の波を止めました。
さらにトランプ大統領が米国の中央銀行であるFRB議長に「タカ派」と言われるケビン・ウォーシュ氏を指名しました。タカ派とは財政規律を重視し、利下げに消極的であることを意味します。利息を生まない金や銀にとって、金利が下がらないことはマイナス要因です。
今の市場は、コンピューターがニュースに反応して自動的に高速売買する取引が主流になっています。2つの出来事で「買い」が不利と判断すると、投資家のコンピューターは一斉に「ストップロス(損切り)の売却」を指示します。
銀の先物市場は金の市場に比べて参加者が少なく、時価総額も5分の1くらいしかありません。だから「売却」指示は、小さな池に石を投げ込んだときのように、大きな波紋となり、津波のように市場を覆いました。33%もの下落は、そのせいでもあるのです。
でも、考えてみてください。銀が昨年後半から急上昇したのは、現物の銀に対する需要が増える一方なのに、鉱山などからの供給が追いつかず、5年連続で年間1万2000トンの供給不足が続いたからです。市場在庫は減る一方で、底を突きかけていました。そこに、銀に対しても投資需要が新たに加わり、「現物の銀不足」がはっきりしました。
今回の暴落は、先物市場で「紙の銀」が乱舞したに過ぎません。現物の銀が不足しているという事実は、ちっとも解消されていないのです。
米英では、先物市場での「紙の銀」「紙の金」取引に熱中していますが、アジアや中近東では多くの人が現物にこそ価値があると考えています。先物市場の急落が波及して、現物の金や銀のスポット価格も大きく下がった週明けの2月2日、中国では現物の貴金属を販売する銀行窓口に長い行列ができました。6時間も並び続けた70代の女性は「値下がりしたので買いに来ました」と、ビジネスタイムズ紙に語りました。

じゃんけんとは違って、貴金属の市場では「グー(塊)がパー(紙)に勝つ」のだ――今回の銀暴落の内幕を調べた専門家のマシュー ・パイペンバーグ氏の結論です。(グラフはRifinitiv、写真はBuisiness Times、サイト管理人・清水建宇)
