「金」の眼鏡で見た おカネの風景

イランは金備蓄に命運を賭ける

 イランは約2500年前にペルシャ帝国を築き、古代オリエントを征服した歴史があります。日本の4倍以上の国土に約9200万人が暮らし、世界で2番目の石油埋蔵量を誇る産油国です。しかし、ウランを濃縮して核兵器を開発していると疑われ、西側から経済制裁を受けました。

 2015年に、欧米や中ロなどと核合意を結んで制裁は解かれましたが、3年後に米国の第1次トランプ政権は「合意は腐っている」と一方的に離脱を宣言し、再び経済制裁に踏み切りました。イランの命綱である石油輸出が困難になり、新型コロナウイルスが猛威をふるった時期は、人工呼吸器やワクチンなどを輸入できず、数万人が死んだといわれています。

 昨年10月、ガザ地区のパレスチナ組織ハマスがイスラエルに侵攻して多数の人質を取ると、イスラエルのネタニヤフ政権は、イランの影響下にあるレバノンのヒズボラ、シリアなども攻撃し、イランにも攻め込みました。第2次トランプ米政権はことし6月、地下60mまで貫通するバンカーバスター爆弾を10発以上、イランに投下しました。

 国が崩壊するかもしれない非常時は終わりが見えません。しかしイランはこの間ずっと、ひとつのことをたゆまず続けてきました。それは金を蓄えることです。

 かつてのイランは、外貨準備の多くを米国債などのドル資産や西側の銀行預金として保有していましたが、徐々に金塊に変え、そのことを2008年に初めて公表しました。経済担当の副大臣が「安全性を高めるためである」と述べたのです。

 イランは、公的に保有する金塊の量をIMFや世界金評議会(WGC)に公表していないので、世界の金保有ランキングには登場しません。しかし、貿易統計などから、2024年だけでも金塊の輸入量が100トンを超え、総輸入額の11%を占めたと推計されています。とくにイラン暦の上半期(3月~9月)には前年同期の6倍にあたる43トンを輸入しました。

 また、イラン政府は企業が輸出代金を受け取る場合、外貨をイランに送金する代わりに、金塊で受け取って、それを輸入することを許可してきました。民間部門でもイラン国内に金を蓄えることを奨励しているわけです。

 政府間の取り引きも同様です。ウクライナ戦争で、ロシアはイランから大量の軍事用ドローン「シャヘド」を購入しましたが、ハッカーにより流出した文書によると、イランはその代金の一部を数トンの金塊で受け取りました。

イランは、ペルシャ帝国の時代から金の宝飾品産業が根付き、イランの宝石・金製品製造輸出業組合によると、現在も全国に約1万軒の工房と業者があります。売り上げは今年の第2四半期に前年より12%伸びました。つまり一般の国民も乏しい中で金を買っているわけです。

 外国に拠点を置くペルシャ語放送局「イラン・インターナショナル」は、イランが金輸入を増加させていることについて、「自国の経済を外貨不足から守り、経済制裁下で国際貿易を管理しようとする取り組みだ」と報道しました。

 イランの元銀行頭取のホセイン・メリ氏は、もっと率直に語りました。「私たちは46年間、西側諸国の制裁に耐えてきました。金は、こうした制裁に対する『ワクチン』です。私たちはワクチンの接種を受けているのです」

 メリ氏の言葉は、イランが必死に防戦に努めていることを示しています。しかし、イランの「武器」は金だけではありません。じつは世界の金融システムを一挙に破壊する「金融の核爆弾」の引き金も、イランは手にしているという、恐ろしい話があります。それは次号で紹介しましょう。(写真はPars Today、サイト管理人・清水建宇)

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