「金」の眼鏡で見た おカネの風景

アフリカで「鉱物担保通貨」誕生へ

 アフリカ開発銀行という組織があります。1964年に設立され、アフリカの54か国と欧米や日本など27か国が参加し、食糧増産や電力の普及などを進めてきました。授権資本は3180億ドル。東京にもアジア代表事務所があります。

 このアフリカ開発銀行は、国際的な会計事務所の協力を得て、アフリカで産出される重要鉱物に裏付けられた新しい通貨をつくるという野心的な計画に取り組み、この夏、基本的な枠組みが米国メディアによって報道されました。

 通貨の暫定的な名称は「AUA(アフリカ計算単位)」です。この通貨は、外国為替市場で取り引きされますが、一般市民の間で流通することは想定しておらず、買い物や預金、送金に使われることはありません。アフリカの国ぐにが融資を受けたり、貿易の差額を決済したり、中央銀行が外貨準備資産として蓄えたりするときに使われる「非流通通貨」です。

 アフリカでも長い間、融資や決済には主に米ドルが使われてきました。しかし、米ドルは長い間、下落が続いています。日本円との比較だけでは分かりにくいですが、ドル指数を見ると下落傾向は一目瞭然です。ドル指数は、ユーロ、円、英ポンド、スイスフラン、カナダドル、スウェーデンクローナの6通貨と比べた数値ですが、今年の9カ月間で13%も下落しました。

 「AUA」は、米ドルへの依存度を下げ、重要鉱物で裏付けられた新通貨にに置き換えることで、ドル下落の影響を防ごうとするものです。また、価値の裏付けがあるので、外国為替市場で買われやすくなり、アフリカの開発プロジェクト向けの融資の金利も下がると期待されています。

 この世界をつくった造物主(神さま)の気まぐれで、最も貧しく、最も発展が遅れたアフリカ大陸には、貴重な鉱物資源がたくさんあります。国際通貨基金(IMF)は世界の埋蔵量の3分の1がアフリカに集まっていると見ています。

 米国地質研究所は、米国の経済・軍備に欠かすことのできないリチウム、コバルト、プラチナなど50種類を「重要金属」に指定しました。ほとんどがアフリカで産出されており、南アフリカはマンガンとプラチナの生産量で世界一位、コンゴは世界のコバルトの70%を生産し、ジンバブエは世界有数のリチウム生産国です。

 先週のこの欄で、金産出国のうち19か国の中央銀行が、準備資産の金をロンドン市場などで購入するのを止め、自国の採掘業者や鉱山から直接調達するようになったことを紹介しました。「AUA」もアフリカの資源をアフリカの通貨のために役立て、ドル依存を克服しようとする戦略であり、同じ流れだと思います。

 アフリカ開発銀行で新通貨を担当するムーノ・ムポトラ氏によると、どの鉱物を、どんな組み合わせで裏付けとするかを決めて、近く「試験国」を選定します。1971年にニクソン大統領がドルと金の兌換を停止して以来、おカネは「法律で定められた紙切れ」に過ぎなくなりました。それから半世紀余りを経て、一般に流通しないにせよ、金属で価値を裏付けられた通貨がようやく誕生することになります。

 今回は「重要金属」に金が含まれていませんが、アフリカは金の生産においても地域別に見て「世界一」です。下のグラフを見てください。世界金協会の最新データによると、昨年の生産量は、アフリカが1010トンで、世界の28%を占めました。

 国別のランキングでも、世界の「トップ30」にガーナ、マリ、タンザニアなど11か国が名を連ねています。「AUA」が成功すれば、金で裏付けられた新通貨も、やがて視野に入ってくるのではないか。素人考えかもしれませんが、そんな予想が思い浮かびます。(グラフは日経新聞、Visual Capitalist、サイト管理人・清水建宇)

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